
- 114条区画(防火上主要な間仕切り壁)って何?
- 具体的な設計基準が知りたい。
- どんな建物用途を設計するときに必要?
こんな疑問に答えます。
本記事では、建築基準法における「防火上主要な間仕切り壁」、いわゆる令114条区画について解説。
主に、保育園・老人ホームなどの”児童福祉施設等”や、ホテル・寄宿舎といった”就寝をともなう施設”の設計をする際に欠かせない情報です。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
防火上主要な間仕切壁(114条区画)とは
『防火上主要な間仕切り壁』とは、”学校・保育園・就寝をともなう施設など”の建物で、火災時に避難経路を確保するために重要となる壁のことです。

建築基準法の施行令114条に定められていることから、「114条区画」と呼ばれることも。
ただ…、法文には「防火上主要な間仕切り壁」という用語が出てくるだけで、具体的な基準は書かれていません。
「防火避難規定の解説2023」という書籍に設置位置や構造が詳しく示されています。

つまり、実施設計では「建築基準法の法令集」と「防火避難規定の解説2023」をセットで読む必要があるということ。
114条区画以外にも防火避難規定に関する全国的な運用が数多く掲載されているので、必ず目を通しておきましょう。
防火上主要な間仕切壁(114条区画)が必要な用途
「防火上主要な間仕切り壁」が必要となる建物用途は、以下のとおり。
- 学校
- 病院
- 診療所(患者の収容施設がないものは免除)
- 児童福祉施設等
- ホテル
- 旅館
- 下宿
- 寄宿舎
- マーケット

”不特定多数の利用する施設”、”避難が困難な子供や高齢者の利用する施設”が対象ですね。
防火上主要な間仕切壁(114条区画)の設置位置
防火上主要な間仕切り壁の設置位置は、建物用途ごとに異なり、要約すると下記のとおりです。
✔ 学校
- 教室どうしの間仕切り壁
- 教室と避難経路(廊下・階段)を区画する壁
✔ 病院・診療所・児童福祉施設等・ホテル(旅館)・寄宿舎・下宿
- 3室以下かつ100㎡以内ごとに区画する間仕切り壁
- 病室・就寝室・保育室等と避難経路を区画する壁

就寝室以外にも居室と避難経路は、防火上主要な間仕切り壁で区画することが望ましいとされています。
また、児童福祉施設等には、老人ホームや障がい者グループホームなどの施設も含まれるので注意。
対象となる建物用途は、『児童福祉施設等』とは|建築基準法による対象用途まとめ【一覧表】という記事をご参照ください。
✔ マーケット
✔ キッチン・厨房などコンロを設置する室
防火上主要な間仕切壁(114条区画)の構造
「防火上主要な間仕切り壁」に要求される構造は、おおまかに言うと以下の2つ。
- 準耐火構造(または耐火構造)で造ること
- 小屋裏または天井裏まで到達させること
また、”防火上主要な間仕切り壁”は主要構造部とみなされます。

例えば、耐火建築物を計画する場合、主要構造物すべてに耐火構造が要求されるため、114条区画も耐火構造での設計が必須。
✔️ 「主要構造部」と「防火上主要な間仕切り壁」の関係性
建築物の構造種別 | 防火上主要な間仕切壁の種別 | 耐火時間 |
耐火建築物 | 耐火構造 | 耐力壁の時間は位置によって変わる。非耐力壁は1時間 |
準耐火建築物(イ-1) | 準耐火構造 | 1時間 |
準耐火建築物(イ-2) | 準耐火構造 | 45分間 |
準耐火建築物(ロ-1)(外壁耐火) | 準耐火構造 | 45分間 |
準耐火建築物(ロ-2)(主要構造部不燃) | 準耐火構造(材料は準不燃) | 45分間 |
耐火構造や準耐火構造といった用語がわからない方は、下記の記事をご確認ください。
【よくある質問】令114条区画の開口部に防火設備は必要?
「令114条区画」は、「令112条における防火区画」とは異なり、開口部の防火性能について規制はありません。
防火上主要な間仕切壁(114条区画)を免除する方法
防火上主要な間仕切り壁は、一定の要件を満たせば免除されます。
建築基準法に定められた方法は2つ。
- 【免除①】スプリンクラー設備の設置部分
- 【免除②】小規模な建築物で避難が容易な建築物
【免除①】スプリンクラー設備の設置部分
「スプリンクラーを設置した建築物」で、以下のいずれかに該当する部分は、防火上主要な間仕切り壁が免除されます。
- 床面積200㎡以下の階
- 床面積200㎡以内ごとに準耐火構造の壁等で区画した部分


消防法により、スプリンクラーの設置義務がある建築物でよく使われますね。
【免除②】小規模な建築物で避難が容易な建築物


出典:国土交通省
小規模な建築物が対象となる防火上主要な間仕切壁の設置免除は、法文で読むと少し難解なので、箇条書きでまとめてみました。
✔️ 以下のいずれかに該当する建築物の部分が対象
- 居室の床面積が100㎡以下の階
- 居室を床面積100㎡以内ごとに準耐火構造の壁等で区画した部分
✔️ 各居室に以下のいずれかの警報器を設置
- 煙感知式の住宅用防災報知設備
- 自動火災報知設備
- 連動型住宅用防災警報器
✔️ (1)または(2)のいずれかに適合させること
(1)各居室に「屋外への出口」または「避難上有効なバルコニー」があり、以下のいずれかへ避難できること
- 道に通ずる幅員50㎝以上の通路
- 準耐火構造の壁または防火設備(法2条第九号の二ロ)で区画された部分
(2)以下の基準を満たすこと
- 各居室と通路を間仕切壁および戸(常時閉鎖または煙感知器連動閉鎖)で区画
- 各居室の出口から「屋外への出口」または「避難上有効なバルコニー」まで歩行距離8m以下
- 各居室及び通路の壁(床面からの高さ1.2m以上)・天井が以下のいずれかの仕上げであれば、歩行距離16m以下
- 難燃材料
- 令128条の5第1項第一号ロに掲げる仕上げ
- 各居室及び通路の壁(床面からの高さ1.2m以上)・天井が以下のいずれかの仕上げであれば、歩行距離16m以下
防火上主要な間仕切壁の免除規定は、国土交通省告示860号に書かれています。


わりと難解な文章なので、本記事ではシンプルに整理しましたが、法令集の告示編の原文に一度は目を通してください。
ただ…、厳密にいえば、建築基準法の告示を読むだけでは不十分。
法文に書かれている「避難上有効なバルコニー」の定義は、「書籍:防火避難規定の解説2023」にしか書かれていないからです…。
【令114条区画】避難上有効なバルコニーの基準
114条区画における『避難上有効なバルコニー』の基準をおおまかにまとめると以下のとおり。
-
- バルコニーは道に面する50㎝以上の通路に面すること
- バルコニーの床面積:1.2㎡以上
- バルコニーの奥行き:75㎝以上
- 屋内からバルコニーへの出口:幅75㎝以上、高さ120㎝以上
- バルコニーは外気に開放されていること
- バルコニーの床は構造耐力上安全であること
上記は、防火避難規定の解説2023に記載された内容の一部です。
実施設計を行う際は、必ず原文を読み、本質を理解したうえでプランを作成してください。
防火上主要な間仕切壁(114条区画)の緩和
防火上主要な間仕切り壁の「小屋裏または天井裏まで達せしめなければならない」という規制を緩和する条文もあります。
建築物が以下のいずれかに該当する場合は、”防火上主要な間仕切壁”を天井までで留めることができます。
- 天井の全部が強化天井である階
- 準耐火構造の壁または防火設備(法2条第九号の二ロ)で区画されている部分で、天井が強化天井であるもの
- 強化天井を設備配管(給水管・配電管など)が貫通する場合は、貫通処理を行うこと
設備配管が強化天井を貫通する際は、耐火性能を損なわないような処理を施す必要があります。


実際の設計では、告示694号を参照のうえ、設備設計者と検討を行いましょう。
(国土交通省告示第694号)
強化天井の構造方法を定める件(平成28年4月22日)
建築基準法施行令第112条第4項第一号の規定に基づき、強化天井の構造方法を次のように定める。
以下省略
防火上主要な間仕切壁(114条区画)を建築基準法で読む
防火上主要な間仕切壁は、建築基準法の施行令114条2項に定められています。
(建築物の界壁、間仕切壁及び隔壁)
第114条
中略
2 学校、病院、診療所(患者の収容施設を有しないものを除く。)、児童福祉施設等、ホテル、旅館、下宿、寄宿舎又はマーケットの用途に供する建築物の当該用途に供する部分については、その防火上主要な間仕切壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の間仕切壁を除く。)を準耐火構造とし、第112条第4項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。
以下省略
緩和規定である(建築基準法施行令)第112条4項各号を抜粋すると以下のとおり。
一 天井の全部が強化天井(天井のうち、その下方からの通常の火災時の加熱に対してその上方への延焼を有効に防止することができるものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。次号及び第114条第3項において同じ。)である階
二 準耐火構造の壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で区画されている部分で、当該部分の天井が強化天井であるもの
防火上主要な間仕切壁の免除規定は、国土交通省告示860号ですね。
国土交通省告示第860号
間仕切壁を準耐火構造としないこと等に関して防火上支障がない部分を定める件(平成26年8月22日)
建築基準法施行令第112条第2項及び第114条第2項の規定に基づき、間仕切壁を準耐火構造としないこと等に関して防火上支障がない部分を次のように定める。
以下省略


「建築基準法を読みたくない」という方は、建築法規PRO2025 図解建築申請法規マニュアル や建築申請memo2025 といった書籍で、図や表を見て理解するのがおすすめです。
まとめ
- 防火上主要な間仕切り壁とは、学校・保育園・ホテルなどの建物で、火災時に避難経路を確保するために重要となる壁。
- 建築基準法施行令114条に定められており「114条区画」と呼ばれる。
- 防火上主要な間仕切り壁が必要となる建物用途
- 学校
- 病院
- 診療所(患者の収容施設がないものは免除)
- 児童福祉施設等
- ホテル
- 旅館
- 下宿
- 寄宿舎
- マーケット
- 防火上主要な間仕切り壁の設置位置は、建物用途ごとに異なる。
- 学校
- 教室どうしの間仕切り壁
- 教室と避難経路(廊下・階段)を区画する壁
- 病院・診療所・児童福祉施設等・ホテル(旅館)・寄宿舎・下宿
- 3室以下かつ100㎡以内ごとに区画する間仕切り壁
病室・就寝室・保育室等と避難経路を区画する壁
- 3室以下かつ100㎡以内ごとに区画する間仕切り壁
- マーケット
- 店舗と店舗の間にある壁のうち、防火上重要なもの
- キッチン・厨房などコンロを設置する室
- 火気使用室とその他の部分を区画する壁
- 学校
- 防火上主要な間仕切り壁に要求される構造
- 準耐火構造(または耐火構造)で造ること
- 小屋裏または天井裏まで到達させること
- 防火上主要な間仕切り壁は、主要構造部とみなされる。
- 令114条区画の開口部には制限がないため、防火設備は不要。
- 防火上主要な間仕切り壁は、一定の要件を満たせば免除される。
- 【免除①】スプリンクラー設備の設置部分
- 【免除②】小規模な建築物で避難が容易な建築物
- 以下のいずれかに該当する場合は、”防火上主要な間仕切壁”を天井までで留めることが可能。
- 天井の全部が強化天井である階
- 準耐火構造の壁または防火設備(法2条第九号の二ロ)で区画されている部分で、天井が強化天井であるもの
- 強化天井を設備配管(給水管・配電管など)が貫通する場合は、貫通処理を行うこと