
- 『異種用途区画』ってなに?
- 異種用途区画が必要な建築物って、どんな用途?
- 区画の壁、床、建具に必要な防火性能がわからない。
こんな疑問に答えます。
本記事では、建築基準法における『異種用途区画』の基準について解説。
ひとつの建築物に複数の用途がある施設(複合施設)を設計する方に役立つ情報です。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
確認検査機関の検査員として、『異種用途区画』の法適合性を審査した経験を活かして、防火区画の基準をわかりやすく解説します。
異種用途区画とは
『異種用途区画』とは、防火区画の一種で、建築基準法施行令112条18項に定められています。
✓ 防火区画の種別
ちなみに「異種用途区画」というのは通称で、建築基準法の本文にはでてきません。
「建築物の一部が、”建築基準法27条における一定の規模と用途”に該当する場合、他の用途とのあいだに防火上有効な区画を設けなければならない」という規定です。

”建築基準法27条における一定の規模と用途”については、のちほど説明します。
異種用途区画は2018年9月に法改正
法改正前は、建築基準法24条における「小規模な特殊建築物」と「その他の用途」とのあいだにも異種用途区画が必要でした。
しかし、2018年9月の建築基準法の改正によって、以下に記載する「小規模な特殊建築物」に対しては異種用途区画が不要となっています。
- 学校、劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場、マーケット、公衆浴場
- 自動車車庫で50㎡を超えるもの
- 百貨店、共同住宅、寄宿舎、病院、倉庫で、階数2かつ200㎡を超えるもの
異種用途区画が必要な建物用途とは?【区画が不要な用途もある】
区画が必要となるのは、法27条第1項、第2項、第3項のいずれかに該当する建物のみです。
2つの用途をもつ建物に対して、常に「異種用途区画」が必要というわけではありません。
✓ 異種用途区画が必要となる用途・規模
- 建築基準法【別表第一】の表にあてはまる用途・規模
- 劇場・映画館・演芸場の用途で、主階が1階にないもの
- 別表第二(と)項第四号に規定する危険物の貯蔵場、または処理場の用途に供するもの
”建築基準法【別表第一】の表にあてはまる用途・規模”とは、以下の表の黄色でマーキングした部分です。

”表に書かれた用途・規模に当てはまる建築物の部分”と、”それ以外の部分”との間を防火上有効な壁・床・開口部で区画するわけですね。
たとえば、”3階建ての共同住宅”の一部に”店舗”がある場合、「3階建共同住宅」が上記の表の黄色マーキング部分に当てはまるので、「店舗」とのあいだに異種用途区画が必要となります。
異種用途区画が免除されるケース
日本建築行政会議が発行している”建築物の防火避難規定の解説”において、ひとつの建物内に異なる用途が複数ある場合でも、以下の要件にあてはまれば区画が免除されています。
- 管理者が同一であること。
- 利用者が一体施設として利用するものであること。
- 利用時間がほぼ同一であること。
- 自動車車庫、倉庫等以外の用途であること。

ただし、緩和条件のひとつ「利用時間が同一であること」という基準は、設計図面で判断できません。
確認申請を提出する際は、確認検査機関と前もって協議しておきましょう。
異種用途区画の壁・床に必要な構造とは
異種用途区画を構成する壁・床は、「1時間準耐火基準に適合する準耐火構造」が求められます。
”1時間準耐火基準に適合する準耐火構造”は、告示仕様か大臣認定仕様のいずれかを選択することになります。
- 告示仕様:建築基準法の国土交通省告示第195号に適合するもの
- 大臣認定仕様:耐火被覆の仕様ごとに、大臣の認定を受けているもの
1時間準耐火構造について詳しく知りたい方は、準耐火建築物(イ-1)とは?3分でわかる設計の基準という記事をご確認ください。

異種用途区画に必要な防火設備とは
異種用途区画となる壁に開口部を設ける場合、建具を「特定防火設備(遮煙性能付き)」とする必要があります。

たとえば、厚さ1.5mm以上の鋼製ドアや防火ダンパーが代表的ですね。
特定防火設備を設計するときは、告示仕様か大臣認定仕様のいずれかを選択します。
- 告示仕様:建設省告示第 1369 号(遮炎性能)と告示第2564号(遮煙性能)に適合すること
- 大臣認定仕様:特定防火設備として大臣認定(CAS)を取得しているもの
異種用途区画にスパンドレルの設置は不要
異種用途区画にスパンドレル(令112条16項)は不要です。
建築基準法施行令112条16項において、面積区画や竪穴区画にはスパンドレルが必要とされていものの、異種用途区画は含まれていません。

ちなみに「スパンドレル」という用語は通称であり、建築基準法の本文には書かれていません。

異種用途区画を設計するときに必ず読むべき書籍
実務設計で異種用途区画の検討を行うときに欠かせない書籍は、以下の3冊です。
- 建築物の防火避難規定の解説
- 基本建築関係法令集〔法令編〕令和3年版
- 基本建築関係法令集 告示編
防火避難規定の解説
異種用途区画が不要となる場合の要件など、建築基準法の本文には書かれていない取り扱いが多く掲載されています。
防火区画が必要な建築物を設計する場合は必須と断言できます。
基本建築関係法令集 法令編
この記事で解説した内容を建築基準法の本文と照らし合わせることで、法律知識が身に付きます。
建築基準法の本質を理解しなければ、設計をするときに応用が効きません。
基本建築関係法令集 告示編
1時間準耐火構造の告示195号は”法令編”には載っておらず、”告示編”にしか掲載されていません。
まとめ
- 異種用途区画は「建築物が”一定の規模と用途”に該当する場合、他の用途とのあいだに防火区画を設けなければならない」という規定。
- 異種用途区画が必要となる用途・規模
- 建築基準法【別表第一】の表にあてはまる用途・規模
- 劇場、映画館又は演芸場の用途に供するもので、主階が1階にないもの
- 別表第二(と)項第四号に規定する危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供するもの
- 異種用途区画を構成する壁・床:1時間準耐火基準に適合する準耐火構造
- 異種用途区画となる壁に開口部:特定防火設備(遮煙性能付き)
- 異種用途区画にスパンドレル(令112条16項)は不要。