延焼ラインを緩和するための告示が、令和2年2月27日に施行されたので、記事を加筆・修正しました。
- 建築基準法改正(2019年6月25日施行)で延焼ラインはどう変わる?
- これまで通りの延焼ラインの設定は不可?
- 延焼ラインを緩和する方法があるなら教えてほしい。
こんな疑問に答えます。
本記事では、建築基準法改正におけるメイントピックのひとつ、『延焼ライン』の緩和基準について解説します。
読んで頂ければ、新しい延焼ラインの設定方法について理解できるかと。
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1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
【建築基準法改正】延焼ラインを緩和する方法
2019年6月25日施行の建築基準法改正によって、延焼ラインの法文が変わりました。
ざっくり言うと、以下のとおり。
隣地や別棟の建物から火災が発生したときに、炎に対して外壁が斜めに接していれば、まっすぐ対面している場合と比べて、熱的な影響が少ないという考え方ですね。
令和2年2月27日に国土交通省告示197号で、延焼ラインが緩和される具体的な条件が定められました。
延焼ラインの緩和要件は、大きく分けて2つに分類されます。
- 2以上の建築物の中心から発生する延焼ラインにおける緩和
- 隣地境界線等からの延焼ラインにおける緩和
それぞれの緩和条件を詳しく見てみましょう。
“2以上の建築物の中心から発生する延焼ライン”の緩和
2以上の建物の中心から発生する延焼ライン(隣棟間延焼ライン)の緩和は、主要構造部に一定の性能(準耐火構造など)がある場合にのみ適用できます。
✔ 隣棟間延焼ラインを緩和できる建築物の耐火性能
- 主要構造部が以下のいずれかに該当する建築物
- 耐火構造:令第107条各号
- 準耐火構造:令第107条の2各号
- 耐火性能検証:令第108条の3第1項第一号イおよびロ
- 準耐火ロ-1:令第109条の3第一号
- 準耐火ロ-2:令第109条の3第二号
- 延焼防止建築物・準延焼防止建築物:令第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物
上記の建築物であれば、以下の①と②の距離まで延焼ラインを緩和することができます。
- 建築物の階の区分ごとに計算した隣地境界線等からの距離 d の部分
- 他の建築物の地盤面から計算した高さ h の部分
細かな計算式を読むまえに、図でイメージをつかんでください。
出典:国土交通省
「①階の区分ごとに計算する距離d」の計算式は以下のとおり。
この式において、d、D、A、θは、それぞれ次の数値を表すものとする。
- d:隣地境界線等からの距離(単位:m)
- D:建築物の階の区分に応じた下記の数値(単位:m)
- 1階:2.5m
- 2階以上:4m
- A:建築物の階の区分に応じた下記の数値(単位:m)
- 1階:3m
- 2階以上:5m
- θ:建築物の外壁面(隣地境界線等に面するものに限る。)と当該隣地境界線等とのなす角度のうち最小のもの(当該外壁面が当該隣地境界線等に平行である場合にあっては、0とする。)(単位:度)
「②他の建築物の地盤面から計算した高さ h 」の計算式は以下のとおり。
- h:他の建築物の地盤面からの高さ(単位:m)
- hlow:他の建築物の高さ(単位:m)
- H:他の建築物の高さの区分に応じた下記の数値(単位:m)
- 5m未満:5
- 5m以上:10
- S:建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの(単位:m)
- dfloor:隣地境界線等からの距離d(計算式①)のうち最大のもの(単位:m)
“隣地境界線等からの延焼ライン”の緩和
建築物の階の区分ごとに計算した、隣地境界線等からの距離dまでを延焼ラインとみなすことができます。
つまり、3m・5mの延焼ラインの範囲が短くなるイメージ。
出典:国土交通省
距離dの計算式は、上記(隣棟間の延焼ライン緩和)で解説した「①階の区分ごとに計算する距離d」と同じです。
『延焼ライン』の改正について建築基準法を読む
延焼ライン(延焼のおそれのある部分)については、建築基準法2条1項六号に定められています。
新たに追加された条文は以下のとおり。
(用語の定義)
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
前略
六 延焼のおそれのある部分
中略
ロ 建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて、当該建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのないものとして国土交通大臣が定める部分
以下省略
ここでは、延焼ラインの法改正部分だけを書きましたが、基本的な内容について知りたい方は、延焼ライン(延焼のおそれのある部分)とは?建築基準法の基準を解説【図解付き】という記事をどうぞ。
書籍で学びたい方は、建築法規PRO2024 図解建築申請法規マニュアルが図解多めでわかりやすいです。
延焼ラインを緩和する目的
これまで隣地境界線などから延焼ラインがかかるときに、「炎が回り込む」という想定で延焼のおそれのある範囲を設定してきました。
でも、炎に直面している部分と回り込みを受けて加熱される部分に、同じ防火性能を求められるのは少しおかしいと思いますよね。
「炎って、90°以上の角度で回り込むものなのかな…?」と疑問に思っていました。
延焼を受ける範囲を合理的に設定できるようにする、というのが今回の改正のポイント。
もちろん法改正の後も、これまでと同様に炎の回り込みを検討して設計すれば、なんら問題はありません。
「より理にかなった延焼ラインの設定をしたい設計者は、計算によって範囲を小さくできる」って話です。
『延焼ライン』の緩和について国交省のWebサイトをチェック
建築基準法の改正内容について、この記事を読んだあとに、国土交通省のWebサイトも確認してください。
情報源を見ておかないと、自信を持って設計ができないからです。
この記事でざっくりした全体像をつかんでおいて、国土交通省のWebサイトにアップされた法文を確認するという流れが重要。
国交省の法改正情報のリンクを貼っておきますので、時間を見つけて読んでおき、確信を持って設計できるようにしておきましょう。
まとめ
- 2019年6月25日施行の建築基準法改正によって、延焼ラインの法文が変わった。
- 建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて国土交通大臣が定める部分が「延焼のおそれのある部分」の対象外とする。
- 延焼ラインの具体的な緩和要件は、2019年6月25日の時点では公開されていなかった。
- 令和2年2月27日に国土交通省告示197号で、延焼ライン緩和の条件が定められた。
- 延焼ラインの緩和要件は、大きく分けて2つに分類される。
- 2以上の建築物の中心から発生する延焼ラインにおける緩和
- 隣地境界線等からの延焼ラインにおける緩和