延焼ラインの緩和方法まとめ【里道・水路・公園に面する敷地の緩和】

防火規定
  • 延焼ラインを緩和することはできる?
  • 敷地が水路や里道に面していれば、緩和があるって本当?
  • 小規模な駐輪場を設置するとき、隣り合う建物との延焼ラインは発生する?

こんな疑問に答えます。

 

本記事では、延焼ラインを緩和することができる様々な状況について解説。

建築基準法には、敷地の状況や建築する建物の用途によって、延焼ラインが緩和できるケースがあります。

防火設備をできるだけ少なく設計したいという方には役立つ情報かと。

 

延焼ラインについて、概要が知りたいという方は、延焼ライン(延焼のおそれのある部分)とは?建築基準法の基準を解説【図解付き】という記事を先にご確認ください。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。

住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。

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『延焼ラインの緩和』が適用できるケースとは

延焼ラインは、敷地の状況や建物の用途によって、適用される範囲を緩和することができます。

延焼ラインの緩和方法は大きく分けると、以下の3パターン。

  • 敷地が里道・水路などに面するときの緩和
  • 火災発生のおそれが少ない建物における緩和
  • 防火性能を持つ塀・袖壁による緩和

ここからは、それぞれの緩和について詳しく解説していきます。

 

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敷地が『里道・水路・線路・公園』に面するときの延焼ライン緩和【一覧表】

敷地の状況に応じた延焼ラインの緩和方法について、まずは以下の一覧表を見てください。

 

表:防火上有効な空地による延焼ラインの緩和一覧表

防火上有効な空地の種類 緩和内容
里道・農道・臨港道路など(公共団体が所有・管理) 里道などの中心線から延焼ラインを適用
水路・都市下水路など(公共団体が所有・管理) 水路などの中心線から延焼ラインを適用
水面(川・海) 面する部分は延焼ライン免除
線路敷
※高架や駅舎があると緩和不可となる場合あり
面する部分は延焼ライン免除
公園・広場など 面する部分は延焼ライン免除

細かい建築基準法の解釈や考え方は、ここから解説していきますが、とりあえず一覧表を確認すれば、延焼ライン緩和の適用範囲が一目でわかりますね。

 

『里道・農道・臨港道路』に敷地が面するときの延焼ラインの緩和

里道や農道に敷地が面するとき、延焼ラインは里道の中心線から適用することができます。

敷地が道路に面する場合、道路中心線から延焼ラインを測定するのが基本ルールであり、里道も同じ扱い。

 

 

里道は、建築基準法の道路ではないものの、通行にしか使われない敷地のため、火災が発生したり、燃え広がる危険性が少ないからですね。

 

『水路・都市下水路』に敷地が面するときの延焼ラインの緩和

敷地が水路に面するときは、延焼ラインが水路中心線から測定可能。

 

水路も火災が燃え広がる危険性が少なく…というよりほぼ可能性がゼロだと思われるので緩和の余地があるってことですね。

 

『河川・海』に敷地が面するときの延焼ラインの緩和

敷地に対して河川や海が面しているときは、延焼ラインは発生しません。

火災発生の可能性はゼロに等しいので当然かと。。。

 

『線路敷』に敷地が面するときの延焼ラインの緩和

線路敷に面する敷地境界からも延焼ラインは検討不要です。

ただし、高架や駅舎が線路上にある場合は注意が必要。特定行政庁や確認検査機関の判断によっては緩和ができないケースもあります。

公図等による判断だけでなく、現地を見て、線路敷に建屋がないことを確認しておきましょう。

 

『公園・広場』に敷地が面するときの延焼ラインの緩和

公園・広場に面する敷地境界からは延焼ラインはかかりません。

公園は建築物のない広々とした空間のため、火災発生のおそれがなく、建物が密集することによる延焼の危険性もないということですね。

ただし、どのような公園・広場でも緩和の対象となるわけではありません。

 

公園のなかでも、「都市公園法にもとづく公園・緑地」のみ延焼ラインの緩和が使えます。

広場であれば「公共団体が所有または管理する公開広場」などに限られています。

見かけは公園と言えそうなスペースに敷地が面していたとしても、都市公園法による公園でないと、緩和不可。必ず設計前に調査をしておきましょう。

 

市町村によっては、都市公園かどうかインターネットで調べることができます。

例えば、大阪市の都市計画公園を調べる場合は、地図情報サイト|マップナビおおさかというサイトで検索可能ですね。

https://www.mapnavi.city.osaka.lg.jp/osakacity/Portal

 

『火災のおそれが少ない建物』における建物間の延焼ライン緩和

【建築基準法の基礎知識】
隣り合う建物どうしの床面積の合計が500㎡を超えるときは、それぞれの外壁の中心線からの延焼ラインを検討する必要があります。

「隣棟間(りんとうかん)の延焼ライン」「建築物相互間の延焼ライン」と呼んだりしますね。

 

この隣棟間の延焼ラインの検討において、建物用途が駐輪場や不燃性の小規模な倉庫など、火災発生の危険が少ないものに対する緩和があります。

隣棟間の延焼ラインが緩和できる付属建築物の用途は以下のとおり。

  • 自転車置き場(バイクの駐輪不可)
  • 平屋の小規模な物置で、開口部に防火設備を設けたもの
  • 小規模なゴミ置場
  • 受水槽・浄化槽の上家
  • ポンプ室

どの用途も主要構造部が不燃材料で作られていることが前提条件です。

例えば、「鉄骨造」であれば緩和OKですが、「木造」ではNGということ。

 

上記の付属建築物は「火災の発生が著しく少ないもの」として取り扱われます。

よって、「本体建築物」と「付属建築物」の合計面積が500㎡を超えたとしても、本体建築物に対しては延焼ラインを生じないものとみなせます。

詳しくは、防火避難規定の解説2023という書籍でチェックしてみてください。図解付きでわかりやすいです。

 

【参考】愛知県:建築物相互間の延焼ラインの取り扱い

ちなみに、愛知県では独自の延焼ラインの取り扱いがあります。とても興味深い建築基準法の解釈ですので、参考までに紹介しておきます。

 高さが著しく異なる建築物相互間における取扱い(平15.10)

高さが著しく異なる建築物相互間における高い建築物の延焼のおそれのある部分の取扱いにおいて、低い建築物の高さに10mを加えた高さを超える部分は、法第2条第六号ただし書に規定する「その他これらに類するものに面する部分」として取り扱うことができるものとする。

ただし、低い建築物が原則として2階建以下であり、危険物庫その他火災荷重の大きい用途に供するものでない場合に限る。

出典:愛知県建築基準法関係例規集

 

『塀・袖壁』による延焼ラインの緩和

炎を遮る性能のある塀や袖壁を設置することで、延焼ラインを緩和する方法があります。

いわゆる防火塀ですね。

 

こちらは別の記事で詳しく解説していますので、防火塀による緩和を検討したい方は、延焼ラインにかかる防火設備を『そで壁』や『塀』で免除する方法【図解あり】という記事をどうぞ。

延焼ライン内の防火設備を『袖壁・塀』で緩和する方法【図解あり】
延焼ラインを袖壁や塀で緩和する方法はある? 防火設備をひとつでも無くして、コストを削減したい。 準防火地域でも延焼ラインは緩和できる?こんな疑問に答えます。本記事では、延焼ラインを『袖壁・塀』によって緩和する方法を解説。『防火塀』や『袖壁』...

 

建築基準法で『延焼ラインの緩和』について読んでみる

延焼ラインの緩和は、建築基準法2条6号に書かれています。

(用語の定義)

第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

中略

六 延焼のおそれのある部分 隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の二以上の建築物(延べ面積の合計が五百平方メートル以内の建築物は、一の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線(ロにおいて「隣地境界線等」という。)から、一階にあつては三メートル以下、二階以上にあつては五メートル以下の距離にある建築物の部分をいう。ただし、次のイ又はロのいずれかに該当する部分を除く。

イ 防火上有効な公園、広場、川その他の空地又は水面、耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分

以下省略

 

まとめ

  • 延焼ラインの緩和方法は大きく分けると、以下の3パターン。
    • 敷地が里道・水路などに面するときの緩和
    • 火災発生のおそれが少ない建物における緩和
    • 防火性能を持つ塀・袖壁による緩和
  • 敷地の状況に応じた延焼ラインの緩和方法は「一覧表」で確認。
  • 隣棟間の延焼ラインは、火災発生の危険が少ない建物に対する緩和あり。
  • 防火塀や袖壁で延焼ラインを緩和する方法をチェック。