
- 杭基礎って何?
- どんな種類がある?
- 杭基礎を採用する基準が知りたい。
こんな疑問や要望に答えます。
本記事では、「杭基礎(基礎ぐい)」についてわかりやすく解説。
記事を読むことで、杭基礎の定義や設計基準を理解することができます。

このサイトは、確認検査機関で審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで1000件以上の設計相談を受けた経験をもとに、建築知識をわかりやすくまとめていきます。ご参考までにどうぞ。
杭基礎とは
杭基礎(くいきそ)とは、建物や構造物の重さを支えるために、コンクリートや鋼などで作られた杭を地中深くまで打ち込み、建物の荷重を地盤の硬い層(支持層)まで伝える基礎工法です。
✓ 杭基礎の特徴
- 軟弱な地盤や浅い基礎では建物を支えきれない場合に採用される。
- 杭の種類には「支持杭(支持層まで到達させて支える)」と「摩擦杭(土と杭の摩擦力で支える)」がある。
- 直接基礎(地表近くの硬い地盤に基礎を設ける方法)と異なり、杭基礎は地中深くまで杭を打つことで安定性を確保する。
特に、大規模で重量の大きい建築物は圧密沈下が予想されるため、杭基礎を良好な支持地盤まで到達させる必要がありますね。
杭基礎の種類
杭基礎は主に以下の3つの観点から分類されます。
- 支持方式
- 施工方法
- 素材
支持方式による分類
支持杭
地中深くの硬い支持層まで杭を到達させ、建物の荷重を杭の先端から支持層に伝える方式です。
高層建物や、支持層が深い場合に多く用いられます。
摩擦杭
杭の側面と地盤との摩擦力により荷重を支える方式です。
支持層まで到達しない場合や、摩擦力が十分に得られる地盤条件で採用されます。
施工方法による分類
既製杭工法
工場で製作された杭(例:コンクリート杭、鋼管杭)を現場に搬入し、打ち込む工法です。
施工期間が比較的短く済みますね。
場所打ち杭工法
現場で所定の位置に孔を掘り、鉄筋を組んでコンクリートを打設する工法です。
杭の長さや断面寸法の自由度が高く、大規模建築物に多用されます。
素材による分類
素材 | 特徴・用途 |
木杭 | 古くから利用され、 地中では腐食しにくい性質を持つ。 近年はエコ素材としても注目されている。 |
鋼杭 | 高い強度と耐久性を備え、 高層ビルや大型建築物で使用される。打撃工法に適し、貫入性にも優れる。 |
コンクリート杭 | 耐久性に優れ、 腐食しにくい。既製杭と場所打ち杭があり、大規模建築物で広く用いられる。 |
杭打ち工法の種類
主な杭打ち工法は以下のとおり。
- 打込み杭工法
- プレボーリング杭工法
- 回転杭工法
打込み杭工法【ハンマーなどで打ち込む】
打込み杭工法は、既製杭(コンクリート杭や鋼管杭など)を所定位置に立て、ハンマー(油圧ハンマ、バイブロハンマなど)で地中に打ち込む工法です。
施工速度が速く、杭の支持力を打撃時の貫入量やリバウンド量から客観的に確認できます。

騒音・振動が大きいので、周辺環境への配慮が必要ですね。
プレボーリング杭工法【事前に穴を掘って杭を挿入】
プレボーリング杭工法は、所定位置に杭径よりやや大きい穴を掘削し、掘削孔内に杭を挿入して設置する工法です。
掘削時に掘削液や杭周固定液を注入し、地盤を安定させながら支持層まで掘り進めます。
掘削後、根固め液を注入して支持層部を強化し、杭を自重や回転で沈設・定着。
騒音・振動が少なく、都市部や近隣住宅地で採用されやすい工法です。
回転杭工法【杭を回転させながら地中に挿入】
回転杭工法は、杭本体に回転力を加え、地盤を切削しながら杭を地中に挿入する工法です。
主に鋼管杭やスクリュー杭で用いられ、比較的硬い地盤にも対応可能。
振動や騒音が少なく、狭い場所や周辺環境への影響を抑えたい現場で有効です。
杭基礎の設計基準
建築基準法において、平12建告第1347号で定められた杭基礎の設計基準は以下のとおり。
check | 設計基準 |
□ | 構造耐力上安全に基礎ぐいの上部を支えるよう配置すること |
□ | 木造の建築物若しくは木造併用構造の木造の構造部分(’平家建ての建築物で延べ面積が50㎡以下のものを除く)の土台の下は、一体の鉄筋コンクリートの基礎ばりを設けること |
□ | 組積造の壁若しくは補強コンクリートブロック造の耐力壁の下にあっては、一体の鉄筋コンクリート造の基礎ばりを設けること |
□ | 場所打ちコンクリートぐいとする場合は次の基準を満たすこと
|
□ | 高強度プレストレストコンクリートぐいとする場合はJIS A5337-1995に適合するもの |
□ | 遠心力鉄筋コンクリートぐいとする場合はJIS A5310-1995に適合するもの |
□ | 鋼管ぐいとする場合は次の基準を満たすこと
|
杭基礎のメリット
杭基礎のメリットをまとめました。
メリット | 備考 | |
1 | 軟弱地盤でも建築が可能 | 杭を地中の硬い支持層まで打ち込むことで、地盤が弱い場所でも建物をしっかり支えられる。 |
2 | 重量のある建物にも対応可能 | 高層ビルやマンションなど、荷重が大きい建築物にも適している。 |
3 | 不同沈下(建物の一部だけが沈む現象)の防止 | 地震時の傾斜・基礎の破壊を防ぐ効果がある。耐震性や安全性が向上する。 |
杭基礎のデメリット
杭基礎のデメリットは以下のとおり。
デメリット | 備考 | |
1 | コストと工期の増大 | 直接基礎に比べて施工が複雑で高い技術を要するため、工事費用や工期が大幅に増加します。
特に、支持層までの距離が長い場合は、長尺の杭が必要となり、さらにコストがかさみます。 |
2 | 環境・周辺への影響 | 杭の打設時には騒音や振動が発生し、周辺環境や近隣住民への配慮が求められます。 |
3 | 撤去・土地活用上の問題 | 建物の解体後、杭の引き抜きが困難なため、多くの場合杭が地中に残り、将来の土地利用に支障をきたすことがあります。 |
「杭基礎(基礎ぐい)」について建築基準法を読む
基礎については、建築基準法施行令第38条および平12建告第1347号に定められています。
「建築基準法を読みたくない」という方は、建築法規PRO2025 図解建築申請法規マニュアル や建築申請memo2025 といった書籍で、図や表を見て理解を深めていきましょう。
(基礎)
第三十八条建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。
2 建築物には、異なる構造方法による基礎を併用してはならない。
3 建築物の基礎の構造は、建築物の構造、形態及び地盤の状況を考慮して国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものとしなければならない。この場合において、高さ十三メートル又は延べ面積三千平方メートルを超える建築物で、当該建築物に作用する荷重が最下階の床面積一平方メートルにつき百キロニュートンを超えるものにあつては、基礎の底部(基礎ぐいを使用する場合にあつては、当該基礎ぐいの先端)を良好な地盤に達することとしなければならない。
以下省略
第1 建築基準法施行令(以下「令」という。)第38条第3項に規定する建築物の基礎の構造は、地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度(改良された地盤にあっては、改良後の許容応力度とする。以下同じ。)が1平方メートルにつき20キロニュートン未満の場合にあっては基礎ぐいを用いた構造と、1平方メートルにつき20キロニュートン以上30キロニュートン未満の場合にあっては基礎ぐいを用いた構造又はべた基礎と、1平方メートルにつき30キロニュートン以上の場合にあっては基礎ぐいを用いた構造、べた基礎又は布基礎としなければならない。
2 建築物の基礎を基礎ぐいを用いた構造とする場合にあっては、次に定めるところによらなければならない。
一 基礎ぐいは、構造耐力上安全に基礎ぐいの上部を支えるよう配置すること。
二 木造の建築物若しくは木造と組積造その他の構造とを併用する建築物の木造の構造部分(平家建ての建築物で延べ面積が五十平方メートル以下のものを除く。)の土台の下又は組積造の壁若しくは補強コンクリートブロック造の耐力壁の下にあっては、一体の鉄筋コンクリート(二以上の部材を組み合わせたもので、部材相互を緊結したものを含む。以下同じ。)の基礎ばりを設けること。
三 基礎ぐいの構造は、次に定めるところによるか、又はこれらと同等以上の支持力を有するものとすること。
イ 場所打ちコンクリートぐいとする場合にあっては、次に定める構造とすること。
(1) 主筋として異形鉄筋を6本以上用い、かつ、帯筋と緊結したもの
(2) 主筋の断面積の合計のくい断面積に対する割合を0.4パーセント以上としたもの
ロ 高強度プレストレストコンクリートぐいとする場合にあっては、日本産業規格A5337(プレテンション方式遠心力高強度プレストレストコンクリートくい)─1995に適合するものとすること。
ハ 遠心力鉄筋コンクリートぐいとする場合にあっては、日本産業規格A5310(遠心力鉄筋コンクリートくい)─1995に適合するものとすること。
ニ 鋼管ぐいとする場合にあっては、くいの肉厚は6ミリメートル以上とし、かつ、くいの直径の100分の1以上とすること。
以下省略
まとめ
- 杭基礎とは、コンクリートや鋼などで作られた杭を地中深くまで打ち込み、建物の荷重を支持層まで伝える基礎工法。
- 杭基礎は主に以下の3つの観点から分類されます。
- 支持方式
- 施工方法
- 素材
- 主な杭打ち工法は以下のとおり。
- 打込み杭工法
- プレボーリング杭工法
- 回転杭工法
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