
- 戸建て住宅を計画してるけど、リビングの窓の位置に悩む…。
- もしも火事になったときに、煙を外に出す窓って必要?
- 法律で設置基準は決まってる?
こんな疑問に答えます。
本記事では、住宅を設計するときに知っておきたい『排煙窓』の設置基準をわかりやすく解説。
記事を読むことで、どのくらいの規模の住宅に排煙窓が必要か、排煙に有効な窓の設置位置など、建築基準法における最低限の基準がわかります。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。
1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
排煙窓とは
『排煙窓』とは、火事になったとき、煙を排出するために設置する窓のことです。
火災が発生した初期の段階では、煙を吸ってしまうことによる一酸化炭素中毒による死亡率が高く、少しでも煙を外に逃がすことが重要。
建築基準法では、建物の居室に排煙窓を設けることを原則としており、住宅の居室であっても検討は欠かせません。
ただ、2階建の戸建て住宅など、小規模なものについては緩和措置もあります。
そのあたりは後ほど解説しますね。
「現実に火災が起こったときに、いちいち排煙窓を開ける入居者がいる?すぐに避難するに決まってるだろう!」というご意見がわりと多いです。
このあたりは僕自身も腑に落ちていない部分ではあるのですが…。
なにはともあれ、建築基準法で定められている以上、基準を満たさないと違反建築物になってしまうので、排煙窓について正しく理解して設計に臨みましょう。
戸建て住宅に排煙窓は必要?
どの用途、どの建物でも、居室に排煙窓があるかどうかの検討は必要。
これを、『排煙の有窓無窓判定』と呼んでいます。
ただし、戸建て住宅で一定の基準を満たす場合は、排煙窓の設置が免除されています。
排煙窓が免除される戸建て住宅とは
下記にあてはまる小規模な住宅は、排煙窓の設置が不要。
- 階数2以下、かつ、延べ面積200㎡以内の戸建て住宅
- 居室の床面積×1/20 ≦ 換気に有効な窓面積
これは、建築基準法の”平12建告第1436号”に定められている基準。
✔️ 『排煙窓』の免除は”平12建告第1436号”を適用
火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分を定める件
(建設省告示第1436号)
建築基準法施行令(以下「令」という。)第126条の2第1項第五号に規定する火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分は、次に掲げるものとする。
中略
四 次のイからホまでのいずれかに該当する建築物の部分
イ 階数が2以下で、延べ面積が200㎡以下の住宅又は床面積の合計が200㎡以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の1/20以上の換気上有効な窓その他の開口部を有するもの
以下省略
戸建て住宅を中心に設計している方は、2階建の住宅で排煙検討をしないことが当たり前になっていて、たまに店舗併用住宅や200㎡を超える住宅を設計すると排煙窓の設置を忘れがち。

どんな建物であっても、居室の排煙の検討は必要。ただし、「住宅で2階以下かつ200㎡以下の建物は、排煙が免除されている」と理解しておきましょう。
住宅以外の建物を設計するときにも応用が効き、ミスがなくなるはずです。
排煙窓が必要な戸建て住宅
排煙窓が必要な住宅というのは、”告示第1436 号”が適用できない建物ですね。
✔️ 排煙窓が必要な住宅の例
- 3階建の戸建て住宅
- 店舗併用住宅の店舗部分
『排煙窓』の設置基準
排煙窓は、天井から80㎝以内の部分に設置して、下記の基準を満たす必要があります。
もし、排煙窓が基準の数値を満たせなかった場合は、”排煙無窓の居室”となり、防火避難上の厳しい制限が付け加えられます。
無窓居室については、『無窓居室』とは|採光・換気・排煙・避難の4種類を整理【一覧表あり】 という記事で詳しく解説しているので、そちらをどうぞ。
排煙窓の設置位置について”よくある質問”
勾配天井の場合は、勾配天井なりに80㎝の範囲に排煙窓を設置しなければいけません。
例えば、京都市の建築基準法の取り扱いを示す”京都市建築法令実務ハンドブック”などが参考になります。
京都市以外の市町村でも同じ解釈のはずですが、計画地の行政の判断を調べておきたい場合は、プロのための 主要都市建築法規取扱基準 四訂版が参考になります。
排煙窓の構造
ここまでの話は、「居室に排煙上有効な窓があるかどうか=排煙無窓ではないかどうか」を判定するプロセスです。
そして、排煙の有窓無窓判定において、『排煙窓の構造』は特に決まりがありません。
「オペレーターを高さ150㎝以内に付けないといけない」とか、「居室に500㎜の垂れ壁があったら、排煙窓は天井から500㎜の位置にないと有効とみなせない」など、まったく関係なし。
これらは自然排煙設備の基準であり、排煙の有窓無窓判定、いわゆるLVSの排煙検討とは異なります。

排煙窓が45°以上開くのであれば、それ以外に細かい決まりはないので、サッシの仕様についてシビアに考える必要はないかと。
建築基準法で排煙窓について読んでみる
居室が「排煙上有窓 or 無窓の判定」をなぜしないといけないか、理由は建築基準法施行令116条の2に定められているからです。
小規模住宅における排煙窓の免除(平12建告第1436号)へと至る、建築基準法の流れは以下のとおり。
- 排煙の無窓判定:建築基準法|施行令116条の2
- 排煙設備のただし書き緩和:建築基準法|施行令126の2第1項五号
- 排煙設備の緩和基準:建築基準法|平12建告第1436号
(窓その他の開口部を有しない居室等)
第116条の2
法第35条(法第87条第3項において準用する場合を含む。第127条において同じ。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号に該当する窓その他の開口部を有しない居室とする。
一 面積(第20条の規定より計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の1/20以上のもの
二 開放できる部分(天井又は天井から下方80㎝以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の1/50以上のもの
2 ふすま、障子その他随時開放することができるもので仕切られた二室は、前項の規定の適用については、一室とみなす。
第三節 排煙設備
(設置)
第126条の2
前略
第116条の2第1項第二号に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は延べ面積が1000㎡を超える建築物の居室で、その床面積が200㎡を超えるもの(建築物の高さが31m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに防煙壁で区画されたものを除く。)には、排煙設備を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物又は建築物の部分については、この限りでない。
中略
五 火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分として、天井の高さ、壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類等を考慮して国土交通大臣が定めるもの⇒ 平12建告第1436号
以下省略
まとめ
排煙窓は現実に火災が起きたときに、機能しているのでしょうか…。避難が優先されるので、効果的な防災対策になっていないような気がしています。
ただ、実際の利用頻度に反比例するかのごとく、建築基準法における排煙の規定は難解で、設計者の方も悩む場面が多いかと。

僕も確認検査員として、審査を始めた当初は、防火避難規定の中で排煙の審査が一番苦手でした。
とはいえ、一度理解してしまえば、意外と簡単なもの。この記事を参考に、排煙に関する知識を深めてみてください。