- 『特別避難階段』って何?
- どんな基準を満たせばいいかよくわからない。『附室』が必要?
- 法文を読むのが嫌いなので図解で知りたい。
こんな疑問や要望に答えます。
この記事では、特別避難階段の基準や設置が必要となる条件について解説します。
高層の建築物を設計するにあたっては必須の知識ですし、直通階段を2ヶ所設けたくないときの緩和でも使える知識かと。
このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
『特別避難階段』とは
特別避難階段は、3種類の避難階段のうちの一つ。
- 避難階段
- 屋外避難階段
- 特別避難階段
『特別避難階段』は、避難階段よりもさらに安全な構造・仕様を持つ直通階段として、建築基準法に規定されています。
『特別避難階段』の構造
特別避難階段には、大きく分けて3つの種類があります。
- バルコニー型
- 自然排煙方式の付室型
- 機械排煙方式の付室型
「建築基準法を読みこむのはつらい…」という方のために、ここからは3つの特別避難階段の基準をそれぞれ図解でまとめていきます。
『バルコニー型』の特別避難階段
居室から階段へと避難するときに、屋外のバルコニーを経由して、特別避難階段に至る計画をとるのが『バルコニー型』。
建築基準法では『バルコニー型』『自然排煙方式』『機械排煙方式』などと区別されていません。あくまでも仮の名称です。
✔『バルコニー型』の特別避難階段の構造 まとめ
- 屋内と階段室とは、バルコニーを通じて連絡すること
- 階段室、バルコニーは耐火構造の壁で囲むこと
- 階段室の天井・壁は、下地・仕上げともに不燃材料で造ること
- 階段室には、予備電源付きの照明設備を設けること
- 「階段室の屋外に面する開口部」と「バルコニー」は、延焼ライン内に設けてはならない
- 「階段室の屋外に面する壁に設ける開口部(1㎡以下の防火設備はめごろし戸は除く)」は、階段室以外の開口部から90㎝以上の距離をとること。ただし、外壁面から50㎝以上突き出した耐火構造または準耐火構造のそで壁・庇などで遮られている場合はOK。
- 階段室には、バルコニーに面する部分以外に、屋内に面して開口部を設けてはならない
- 階段室からバルコニーに面して窓を設けるときは、はめごろし戸とすること
- バルコニーは、階段室以外の屋内に面して、出入口以外の開口部を設けてはならない
- 出入口扉の構造
- 屋内からバルコニーへの出入口:特定防火設備
- バルコニーから階段室への出入口:防火設備
- 階段は耐火構造とし、避難階まで直通させること
- 15階以上または地下3階以下の各階:階段室とバルコニーの床面積の合計≧その階の居室面積×3/100(または 8/100)
建築基準法に書かれている特別避難階段の条件をまとめると、上記のようになります。これを条文で正しく読むのが大変なんですよね。
「延焼ラインに掛からないようにバルコニーを設計しないといけない」という点は特に注意。見落とす設計者の方がわりと多いです。
『自然排煙方式の付室型』の特別避難階段
排煙に有効な開口部を特別避難階段の付室に設ける計画が『自然排煙方式の付室型』。
✔『自然排煙方式の付室型』の特別避難階段の構造 まとめ
- 屋内と階段室とは付室を通じて連絡すること
- 付室には、外気に向かって開くことのできる窓を設けること
- 階段室、付室は耐火構造の壁で囲むこと
- 階段室の天井・壁は、下地・仕上げともに不燃材料で造ること
- 階段室には採光上有効な開口部、または予備電源付きの照明設備を設けること
- 階段室・付室の屋外に面する開口部は、延焼ライン内に設けてはならない
- 「階段室の屋外に面する壁に設ける開口部(1㎡以下の防火設備はめごろし戸は除く)」は、階段室以外の開口部から90㎝以上の距離をとること。ただし、外壁面から50㎝以上突き出した耐火構造または準耐火構造のそで壁・庇などで遮られている場合はOK。
- 階段室には、付室に面する部分以外に、屋内に面して開口部を設けてはならない
- 階段室から付室に面して窓を設けるときは、はめごろし戸とすること
- 付室には、階段室以外の屋内に面して、出入口以外の開口部を設けてはならない
- 出入口扉の構造
- 屋内から付室への出入口:特定防火設備
- 付室から階段室への出入口:防火設備
- 階段は耐火構造とし、避難階まで直通させること
- 15階以上または地下3階以下の各階:階段室と付室の床面積の合計≧その階の居室面積×3/100(または 8/100)
『機械排煙方式の付室型』の特別避難階段
『機械排煙方式の付室型』は文字どおり、機械排煙設備を付室に整備するプラン。3種類のなかでは最もハードルが高いかと。
建築基準法による避難時の歩行距離などを満たすために、階段を建物の中央に設けるしかない場合、機械排煙方式を選ぶケースがありますね。
✔『機械排煙方式の付室型』の特別避難階段の構造 まとめ
- 屋内と階段室とは付室を通じて連絡すること
- 付室には、排煙設備を設けること
- 階段室、付室は耐火構造の壁で囲むこと
- 階段室の天井・壁は、下地・仕上げともに不燃材料で造ること
- 階段室には採光上有効な開口部、または予備電源付きの照明設備を設けること
- 階段室・付室の屋外に面する開口部は、延焼ライン内に設けてはならない
- 「階段室の屋外に面する壁に設ける開口部(1㎡以下の防火設備はめごろし戸は除く)」は、階段室以外の開口部から90㎝以上の距離をとること。ただし、外壁面から50㎝以上突き出した耐火構造または準耐火構造のそで壁・庇などで遮られている場合はOK。
- 階段室には、付室に面する部分以外に、屋内に面して開口部を設けてはならない
- 階段室から付室に面して窓を設けるときは、はめごろし戸とすること
- 付室には、階段室以外の屋内に面して、出入口以外の開口部を設けてはならない
- 出入口扉の構造
- 屋内から付室への出入口:特定防火設備
- 付室から階段室への出入口:防火設備
- 階段は耐火構造とし、避難階まで直通させること
- 15階以上または地下3階以下の各階:階段室と付室の床面積の合計≧その階の居室面積×3/100(または 8/100)
『特別避難階段』が必要となる建物の用途・規模
特別避難階段が必要となる建物を一覧表にまとめると以下のとおり。「対象となる階」から「避難階」への特別避難階段が必要となります。
適用範囲 | 対象となる階 | |
① | ②以外の建築物で、次のいずれかに当てはまるもの
|
15階≦ 階数 |
5階≦ 階数 | ||
階数 ≦地下2階 | ||
階数 ≦地下3階 | ||
② | 3階以上にある物販店舗
|
15階以上の売り場 |
5階以上の売り場 | ||
各階の売り場 屋上広場 |
『特別避難階段』を建築基準法で読んでみる
特別避難階段の構造や設置要件について、図解や一覧表で確認しましたが、できれば建築基準法の法文も読んでおきたいところ。
法文で理解しておいたほうが、確認申請で検査機関とやりとりをするときにも、自信を持って協議することができると思います。
特別避難階段の必要となる建物の用途・規模は、建築基準法施行令122条に定められています。
(避難階段の設置)
第122条前略
建築物の15階以上の階又は地下3階以下の階に通ずる直通階段は同条第3項の規定による特別避難階段としなければならない。
中略
2 3階以上の階を物品販売業を営む店舗の用途に供する建築物にあつては、各階の売場及び屋上広場に通ずる二以上の直通階段を設け、これを次条の規定による避難階段又は特別避難階段としなければならない。
3 前項の直通階段で、5階以上の売場に通ずるものはその一以上を、15階以上の売場に通ずるものはそのすべてを次条第3項の規定による特別避難階段としなければならない。
特別避難階段の構造は、建築基準法施行令123条ですね。
(避難階段及び特別避難階段の構造)
第123条屋内に設ける避難階段は、次に定める構造としなければならない。
中略
3 特別避難階段は、次に定める構造としなければならない。
一 屋内と階段室とは、バルコニー又は付室を通じて連絡すること。
二 屋内と階段室とが付室を通じて連絡する場合においては、階段室又は付室の構造が、通常の火災時に生ずる煙が付室を通じて階段室に流入することを有効に防止できるものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものであること。
以下省略
『特別避難階段』の設計には書籍『防火避難規定の解説』が必須
特別避難階段を設計するときに欠かせないのが、建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)という書籍。
建築基準法では、書ききれない具体的な避難階段の取り扱いがまとめられています。
タイトルどおり、建築基準法における避難規定の解説書ですね。
確認検査機関も審査をするときに判断基準として読んでいるので、確認申請で失敗したくない方は、目を通しておきましょう。
まとめ
- 特別避難階段は、避難階段よりもさらに安全な構造・仕様を持つ直通階段
- 特別避難階段には、大きく分けて3つの種類がある
- バルコニー型
- 自然排煙方式の付室型
- 機械排煙方式の付室型
- 特別避難階段が必要となる建物は一覧表でチェック
- 特別避難階段を設計するときには、建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)が必需品