- 『用途変更』って何?
- 建物の用途を変えると、確認申請が必要になる?
- 床面積200㎡以下は、用途変更しても建築確認は不要?
こんな疑問に答えます。
本記事では、建築基準法における『用途変更』の定義や確認申請の要否について具体的に解説。
既存建物の用途を変えることで、建物の価値を高めたい方や、リノベーションに力を入れている設計者に役立つ情報です。
このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
用途変更とは
『用途変更』とは、既存建物の用途を変えて、別の用途に転用することです。
例えば、以下のようなケース。
- 戸建住宅を事務所として利用
- 共同住宅を民泊(旅館)に改修
- テナントビルの一部を保育所に変更
3つの事例はすべて建築基準法における「用途変更」に該当します。
ただ、確認申請が必要となるかは別問題。変更後の建物用途や規模によって、申請の要否が分かれます。
確認申請手続きが必要な用途変更【床面積200㎡超の特殊建築物】
以下の両方に当てはまる用途変更は、確認申請の手続きが必要です。
- 建物用途:特殊建築物(建築基準法 別表1)への変更
- 規模:変更部分の床面積が200㎡を超えるもの
”建築基準法【別表1】の特殊建築物”は、下記のとおり。
- 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
- 病院、診療所(患者の収容施設があるもの)、ホテル、下宿、共同住宅、寄宿舎、児童福祉施設等(幼保連携型認定こども園を含む)
- 学校、体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場
- 飲食店、物品販売業を営む店舗、百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店
- 倉庫
- 自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ、テレビスタジオ
例えば、すでに”戸建て住宅”として利用している建物を”保育所”へ用途変更する場合、「住宅→保育所(児童福祉施設=特殊建築物)」となるので、床面積が200㎡を超えると確認申請が必要。
逆にいえば、特殊建築物以外の用途に変える場合は申請が不要ですね。
また、特殊建築物への用途変更であっても、建築基準法に定められた「類似の用途」への転用は、確認申請が免除されます。
✔ 確認申請が不要となるケース
- 特殊建築物以外の用途への変更
- 建築基準法に定められた「類似の用途」相互間の変更
確認申請が免除されるケース①:特殊建築物以外の用途変更
用途変更後の建物が、特殊建築物に該当しない場合は、確認申請が不要です。
✔ 確認申請が不要となる事例
- 「戸建て住宅→事務所」への変更
- 「倉庫→工場」への変更
上記は、”別表1に書かれた特殊建築物以外”への変更なので、床面積が200㎡を超えても申請対象となりません。
設計者の責任のもと、建築基準法に適合させればOK。
確認申請が免除されるケース②:類似の用途
特殊建築物への用途変更でも、変更前と変更後の建物用途が、建築基準法にもとづく「類似用途」にあたる場合は、確認申請が不要です。
✔ 確認申請が不要な類似用途
- 劇場、映画館、演芸場
- 公会堂、集会場
- 診療所(患者の収容施設があるもの)、児童福祉施設等※1
- ホテル、旅館
- 下宿、寄宿舎
- 博物館、美術館、図書館※1
- 体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場※2
- 百貨店、マーケット、物品販売業を営む店舗
- キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー※3
- 待合、料理店
- 映画スタジオ、テレビスタジオ
※1:第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域内にある場合を除く
※2:第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、工業専用地域内にある場合を除く
※3:準住居地域または近隣商業地域内にある場合を除く
例えば、上表の③にあたる「診療所」を「保育所(児童福祉施設等)」に転用する際は、類似用途とみなされ、建築確認が免除されます。
もちろん、確認申請を提出する必要がないというだけで、建築基準法には適合させなければいけません。
先ほどの例でいえば、変更後の用途である保育所を”新築するようなイメージ”で設計に臨みましょう。
用途変更は完了検査なし【特定行政庁への完了届が必要】
用途変更の確認申請には「完了検査」がありません。
代わりに、「完了届」を建築主事へ、工事完了後4日以内に提出する必要があります。
注意すべきポイントは、届出先が「建築主事」であるということ。
民間の確認検査機関には、建築主事がいません。決裁を行っているのは、主事ではなく、確認検査員。
つまり、確認検査機関で確認済証の交付を受けたとしても、完了届の提出先は役所の建築主事となります。
用途変更で「現行法規(現在の建築基準法)」が適用される規定
既存建物の用途を変更するとき、建築基準法すべてではなく、一部が準用されます。
✔ 用途変更で準用される規定
- 法27条:耐火建築物等とすべき特殊建築物
- 法28条 1項:採光
- 法28条 3項:火気使用室の換気
- 法29条:地下居室
- 法30条:長屋・共同住宅の界壁
- 法35条:廊下・階段・出入口・排煙設備・非常用照明
- 法35条の2:特殊建築物等の内装
- 法35条の3:無窓居室の主要構造部
- 法36条:第28条1項(採光)、または第35条(廊下・階段・出入口・排煙・非常用照明・進入口・敷地内通路)に関する部分のみ
- 法39条 2項:災害危険区域の条例付加
- 法40条:単体規定の条例付加
- 法43条 2項:接道の条例付加
- 法43条の2:4m未満の接道条例付加
- 法48条1~13項:用途地域関係
- 法51条:卸売り市場等の位置
ただし、準用されない条文であっても…
- 建築基準法に適合する状態を維持すること
- 変更後の建物用途にかかる建築基準法の規定も満たすこと
上記2点は、用途変更をともなう改修計画にあたって、必ず意識しておくべきポイントです。
用途変更は構造規定(法20条)の検討不要?【荷重の検討は必要】
用途を変えても荷重が増えない等、建築基準法への適合性を検討しましょう。
用途を変えた結果、建築基準法に適合しなくなるのは既存不適格ではなく、「違法」とみなされます。
つまり、準用規定にない「構造(法20条)」であっても、建築基準法に適合し、安全性が確保されるのは大前提。
「用途変更の確認申請に構造は関係ない」と勘違いする設計者の方が多いので、ご注意ください。
「用途変更」について建築基準法を読む
用途変更の規定は、建築基準法87条に書かれています。
「建築基準法の本文を読みたくない…、おおまかな概要だけ押さえたい」という方は、プロが読み解く 増改築の法規入門 増補改訂版という書籍がおすすめです。
(用途の変更に対するこの法律の準用)
第87条
建築物の用途を変更して第6条第1項第一号の特殊建築物のいずれかとする場合(当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものである場合を除く。)においては、同条(第3項、第5項及び第6項を除く。)、第6条の2(第三項を除く。)、第6条の4(第1項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第7条第一項並びに第18条第1項から第3項まで及び第14項から第16項までの規定を準用する。この場合において、第7条第1項中「建築主事の検査を申請しなければならない」とあるのは、「建築主事に届け出なければならない」と読み替えるものとする。
以下省略
はじめの一文にご注目ください。
建築物の用途を変更して「法6条1項一号」の特殊建築物とする場合に、確認申請が必要(=法6条の準用)と示されています。
また、確認申請が不要となる「類似の用途」は、建築基準法の施行令137条の18。
(建築物の用途を変更して特殊建築物とする場合に建築主事の確認等を要しない類似の用途)
第137条の18
法第87条第1項の規定により政令で指定する類似の用途は、当該建築物が次の各号のいずれかに掲げる用途である場合において、それぞれ当該各号に掲げる他の用途とする。
以下省略
まとめ
- 用途変更とは、既存建物の用途を変えて、別の用途に転用すること。
- 以下の両方に当てはまる場合は、確認申請が必要。
- 建物用途:特殊建築物(建築基準法 別表1)への変更
- 規模:変更部分の床面積が200㎡を超えるもの
- 以下のいずれかに当てはまる場合は、確認申請が不要。
- 特殊建築物以外の用途への変更
- 変更前と変更後の建物用途が、建築基準法上の「類似用途」であること
- 用途変更の確認申請に「完了検査」はなし。
- 「完了届」を建築主事へ、工事完了後4日以内に提出すること。
- 完了届の提出先は役所の建築主事。
- 用途変更では、建築基準法の一部が準用される。
- 準用規定にない条文でも、建築基準法に適合し、安全性は確保すること。
- 準用条文に「構造規定(法20条)」は含まれていないが、検討は必要。