敷地内通路とは|建築基準法による幅1.5mまたは90㎝の避難経路

敷地内通路 避難規定

※2022年(令和4年)1月4日、記事を加筆・修正しました。

  • 敷地内通路って何?
  • どんな建物に必要?2階建の住宅を設計するときは考えてなかった…。
  • 屋外階段からの避難経路にも確保すべき?

こんな悩みに答えます。

 

本記事では、建築基準法における敷地内通路の設計方法を解説。

建築基準法に定められた「屋外に設ける避難経路」の本質がわかるはず。

主に「特殊建築物」や「3階建て以上の建築物」を計画する方に役立つ情報です。

✔️ 本記事の内容

  • 敷地内通路の定義
  • 敷地内通路が必要となる建築物
  • 通路を確保すべき部分
  • 設計上のポイント

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。

住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。

 

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建築基準法における敷地内通路とは

敷地内通路とは建築物の出口から道路・空地に至るまで、安全に避難するための経路です。

敷地内通路とは

建築基準法では施行令128条に定められており、有効1.5m(緩和条件を満たせば90㎝)以上の通路幅が必要となります。

 

敷地内通路の幅が90㎝に緩和|2020年(令和2年)4月1日法改正

2020年(令和2年)4月1日に建築基準法が改正され、「敷地内通路」の基準が緩和されました。

以下の条件を満たす場合は、通路の幅を90㎝とすること可能に。

  • 階数が3以下
  • 延面積が200㎡未満

3階建て住宅など、小規模な建物に対する制限がゆるくなりましたね。

 

建築基準法で「敷地内通路」を読んでみる

建築基準法施行令128条を見てみましょう。

※下記の赤文字部分:2020年(令和2年)4月1日の建築基準法改正部分

(敷地内の通路)
第128条

敷地内には、第123条第2項の屋外に設ける避難階段及び第125条第一項の出口から道又は公園、広場その他の空地に通ずる幅員が1.5m(階数が3以下で延べ面積が200㎡未満の建築物の敷地内にあつては、90㎝)以上の通路を設けなければならない。

「法文を読みたくない」という方は、建築申請memo2025 建築法規PRO2025 図解建築申請法規マニュアル で図解で学ぶのがおすすめです。

 

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敷地内通路が必要な建築物

敷地内通路は、すべての建築物に必要となるわけではありません。

敷地内通路が必要な建築物

  1. 階数が3以上の建築物
  2. 建築基準法の別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる特殊建築物
  3. 政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物
  4. 延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が1000㎡を超える建築物

2階建て住宅のような「少人数で特定の人が利用するもの」は、屋外で混雑する状況にないため、敷地内通路の制限が免除されています。

ただし、3階建て以上は床面積の大小に関わらず、規制がかかるのでご注意ください。

 

「敷地内通路が必要となる条件」を建築基準法で読んでみる

第六節 敷地内の避難上及び消火上必要な通路等
(適用の範囲)
第127条 この節の規定は、法第35条に掲げる建築物に適用する。

(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)
第35条

別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が1000㎡をこえる建築物については、

中略

敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。

 

敷地内通路を設けるべき部分

敷地内通路の規定は、以下の部分から道路・公園・空地に至るまでの経路に適用されます。

  • 屋外への出口
  • 屋外避難階段の降り口

この「屋外への出口」を建物のどこに設計するかが重要なポイント。

玄関、エントランスだけが「出口」とは限りません。

たとえば、戸建て住宅のキッチンから避難することを想定して、勝手口を「屋外への出口」とみなすことも可能。

玄関とは別に避難経路を確保し、「メインエントランスから道路までは幅90㎝以上の通路がない」といった設計も有効です。

じゃあ、出口はどんな場所に設けてもいいのか…。

自由ではありません。建築基準法による歩行距離(避難経路の長さ)は守る必要があります。

✔️ 「屋外への出口」の位置に関するポイント

  • 直通階段から「屋外への出口」まで歩行距離の基準を満たしていること
  • 避難階の各居室から「屋外への出口」までの歩行距離が基準を満たしていること

少なくとも30m以下の歩行距離であればOKなので、小規模建築物なら簡単にクリアしますね。

 

屋外出口までの歩行距離について建築基準法を読んでみる

「屋外への出口」について規定しているのは、建築基準法施行令125条。

第125条

避難階においては、階段から屋外への出口の一に至る歩行距離は第120条に規定する数値以下と、居室(避難上有効な開口部を有するものを除く。)の各部分から屋外への出口の一に至る歩行距離は同条に規定する数値の2倍以下としなければならない。

令125条の基準となる”令120条”を見てみると以下のとおり。

(直通階段の設置)
第120条

建築物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。次条第一項において同じ。)においては、避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下同じ。)を居室の各部分からその一に至る歩行距離が次の表の数値以下となるように設けなければならない。

✔️ 歩行距離(令120条)

構造

居室の種類

主要構造部が準耐火構造、または不燃材料で造られている場合 その他の場合
(1) 令116条の2第1項一号にあたる開口部を有しない居室

または

法別表第一(い)欄(四)項の特殊建築物の主たる用途に供する居室

30m 30m
(2) 法別表第一(い)欄(二)項の特殊建築物の主たる用途に供する居室 50m 30m
(3) (1)または(2)以外の居室 50m 50m

 

【原則】敷地内通路に屋根をかけてはいけない

敷地内通路には屋根をかけないのが原則です。

「屋根を設けると即NG」ではないものの、特定行政庁による厳しい制限が課せられます。

例えば、大阪府の基準は下記のとおり。

  • 壁と天井を耐火構造としなければいけない
  • 通路に面する開口部は常時閉鎖式の特定防火設備を設置

 

敷地内通路を設計するときのポイント

建築基準法における「敷地内通路」は解釈の幅が広く、特定行政庁の取り扱いも多岐にわたります。

法文そのものはシンプルですが、実際の設計に当てはめると判断に悩むケースが多いもの。

例えば、狭小地をめいっぱい活用したいのであれば、敷地内通路に関するシビアな検討が欠かせません。

そこで、ここからは設計に役立つ6つのポイントを解説します。

  1. 敷地内通路に屋根をかけるときの設計方法
  2. 屋外避難階段からの敷地内通路を建物内に設ける方法
  3. 屋外階段の降り口から敷地内通路が必要
  4. 通路に避難を阻害するものを設置しないこと
  5. 通路に設ける門扉は、幅1.5m(または90㎝)必要
  6. インナーガレージのある建物での法解釈

 

敷地内通路に屋根をかけるときの設計方法

「敷地内通路に屋根をかける設計がしたい」とき、まずは特定行政庁の取り扱いがあるかどうかをインターネットで検索しましょう。

全国の主だった都市の法解釈を調べるには、プロのための 主要都市建築法規取扱基準 四訂版という書籍が便利。

 

屋根を設けないことが原則なので、例外となる設計をするためには防火避難上の制限がかかります。

例えば、大阪府では以下のとおり。

2 − 67 敷地内の避難通路(1)

Q. 令 128 条敷地内の通路の規定のなかでトンネル状のものの扱い、その構造、設備の基準はどうなるか。

A. 通路上に 2 階の床が突出しているもの及びピロティ等で、通路部分の天井及び側壁を耐火構造とし、開口部を有しない等、防火上、避難上支障のない構造としたものは、令 128 条の敷地内の通路として取扱いができるものとする。また、通路部分の天井及び側壁に仕上げを行う場合は、その下地及び仕上げを不燃材料とすること。なお、原則として通路の両端が開放されているものに限る。

出典:建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集

建築基準法の取り扱いを公開していない市町村では、全国的な運用である”防火避難規定の解説2023“を参照しましょう。

敷地内通路に屋根がある場合の設計条件が書かれています。

✔️ 「敷地内通路」の法解釈を調べる手順

  1. 特定行政庁による建築基準法の取り扱いがあるか調べる ⇒ プロのための 主要都市建築法規取扱基準 四訂版
  2. 全国的な運用を調べる ⇒ 防火避難規定の解説2023

 

屋外避難階段からの敷地内通路を建物内に設ける場合は要注意

屋外避難階段を設ける場合は、地上におりた時点で、敷地内通路の規制がかかります。

つまり、階段をおりたらすぐに”屋根のない有効幅1.5mの通路”が必要。

原則から外れて、経路に屋根をかける場合、特定行政庁が防火避難上の制限を課すことも。

例えば、大阪市では下記のとおり。

2-45 屋外避難階段からの敷地内に設けるべき通路を、建物内に設ける場合の取扱い

出入口等から、道路等に通じる幅員1.5m以上の通路が、次の各号に該当する場合には、
建物内に設けることができる。

  1. 通路部分は、主要構造部を耐火構造とし、かつ、これに接続する建築物は、主要構
    造部を耐火構造で造ること。
  2. 通路部分は耐火構造で区画し、原則として開口部を設けないこと。ただし、やむを
    得ず設ける場合は、常時閉鎖式又は煙感知器連動の特定防火設備とすること。(小規
    模な便所・避難通路の幅を確保した自転車置場は除く。)
  3. 壁(床面から1.2mまでの部分を含む。)・天井の仕上げは、仕上げ下地共不燃材料
    とする。
  4. 階段から屋外出口までの(道路等、避難上有効な空地に面すること。)歩行距離は、
    令第120条に規定する数値以下とする。
  5. 通路部分には段差を設けないものとする。
  6. 排煙について、平成12 年告示第1436号四の規定は適用できない。

出典:大阪市建築基準法取扱い要領

上記はあくまでも「屋外避難階段」に関する制限であって、「屋外階段(直通階段)」の取り扱いとは別モノです。

“避難階段”と”直通階段”の違いを詳しく知りたい方は、関連記事をご確認ください。

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屋外階段の降り口から敷地内通路が必要

「屋外階段(直通階段)」で地上へ降りて、道路まで避難する場合、階段の降り口から道路までの経路が敷地内通路とみなされます。

有効幅1.5m(または90㎝)の通路が必要となるので注意しましょう。

敷地内通路とは

ただし、「屋外階段」は「屋外避難階段」と違って、避難階におりてから建物内に入る設計が可能です。

つまり、屋外階段から避難階へ降りて直接、建物内部へ入る場合は「敷地内通路」の規定が適用されません。

避難階の屋内廊下を通りぬけ、玄関扉(屋外への出口)から幅1.5m(または90㎝)の通路を確保すればOK。

 

通路にゴミ置場・駐輪場などを設置しないこと

通路上にゴミ置場や駐輪スペース等を設けて、避難をさまたげるのはNG。

特に、共同住宅などで設置すべき駐輪場の台数が決まっていると、自転車置き場をなくすわけにもいかず、設計の見直しを迫られるため気をつけましょう。

 

敷地内通路にある門は扉幅1.5m(または90㎝)以上必要

敷地内通路に門を設置する場合、扉の幅は1.5m(または90㎝)以上必要。

防火避難規定の解説2023にもとづく取り扱いですね。

片開きの門扉で有効1.5m確保するのが難しければ両開きや、親子扉でも可。

フランス落としが付いていてもOKです。

 

玄関からインナーガレージを抜けて避難する計画について

敷地内通路のスタート地点(屋外への出口)は玄関ドアに限定されません。

例えば、リビングの掃き出し窓から避難する計画でもOK。

また、玄関ドアの前にインナーガレージがある場合は、車路の屋根がなくなった地点から敷地内通路を設けましょう。

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まとめ

  • 敷地内通路は、建築物から道路・空地にいたる経路で、有効1.5mまたは90㎝以上の幅が必要。
  • 2020年(令和2年)4月1日の建築基準法改正により基準が緩和。
    • 以下の条件を満たす場合は、敷地内通路の幅を90㎝とすること可能。
      • 階数が3以下
      • 延面積が200㎡未満
  • 敷地内通路が必要な建築物
    • 階数が3以上である建築物
    • 建築基準法 別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる特殊建築物
    • 政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物
    • 延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が1000㎡を超える建築物
  • 敷地内通路は、以下の部分から道路・公園・空地に至るまでの経路に適用される。
    • 屋外への出口
    • 屋外避難階段の降り口
  • 【原則】敷地内通路に屋根をかけてはいけない。

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