【道路斜線の緩和】後退距離(セットバック)の算定方法まとめ

道路斜線の緩和_後退距離 集団規定
  • 道路斜線制限の後退距離の算定方法が知りたい。
  • 塀や玄関ポーチ屋根が突き出しているときの後退緩和について、詳しく知りたい。
  • 後退緩和を使うときの「適用距離」の算定位置はどこから?
  • 2つの道路が接する敷地での後退距離はどうなる?隅切りがあるときは?

こんな疑問に答えます。

 

この記事では、道路斜線制限における『後退距離(セットバック)』について、わかりやすく解説。

後退距離算定の基本から、少しむずかしい事例まで、図解を交えて解説していくので、幅広い層の設計者に役立つ情報かと。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。

住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。

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後退距離(セットバック)緩和について

道路斜線の制限は、道路境界線と建物が離れている距離(後退距離)に応じた緩和があります。

後退距離のことを「セットバック」と呼んだりもしますね。

前面道路の境界線から建築物の最短距離が「後退距離(セットバック)」となり、道路幅員を後退距離の分だけ、広くみなすことが可能。

道路斜線緩和_後退距離(平面図)

建物が道路から離れていれば離れているほど、道路への採光や通風が確保されるので、建築物の高さ制限が緩和されるわけですね。

後退距離は「一つの道路」に対して1ヶ所定める

後退距離は一の道路に対して、建築物との離隔が最短となる1ヶ所を定めます。

後退緩和を使うときに間違えやすい事例として、斜線を検討する部分ごとに後退距離を算定する設計者がいますが、それはNG。

道路斜線緩和_後退距離NG例(配置図)

道路斜線の後退距離は、一の道路に対して1ヶ所と理解しておきましょう。

後退緩和を使うときの道路斜線の検討式

後退緩和を適用するときの、道路斜線の検討を、計算式で表すと以下のとおり。

(後退距離×2+道路幅員)× [1.25 or 1.5] > 建築物の高さ

確認申請で図面を提出する際は、配置図平面図、屋根伏図に後退距離を示す寸法を記入。立面図断面図に道路斜線の図と計算式を記入しておけばOK。

確認申請での図面表現を詳しく知りたい方は、確認申請マニュアル コンプリート版 2022-23という書籍がおすすめです。

申請図面の具体例が描かれているので、審査員が見やすい確認申請図書を作成するのに役立つかと。

以上が後退緩和の基本的な考え方です。

ここからは実務で後退緩和を使うにあたって「確認申請でよくある質問」を紹介していこうと思います。

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2つ以上の道路に面する敷地の後退距離

道路A、道路Bといった2つの道路に面するときは、

  • 道路A:後退距離a
  • 道路B:後退距離b
道路斜線緩和_後退距離_角地

上図のように、それぞれの道路ごとに後退距離を算定します。

一の道路に対して後退距離は1ヶ所だけ、という原則どおりですね。

「隅切り」のある角地の後退距離

2つの道路に面する角地で、『隅切り』があるときは後退距離を以下のように取ります。

道路斜線緩和_後退距離_角地(隅切り)

隅切り部分の道路境界線は、建築物にとても近くなりますが、基本的には考慮しません。

隅切りは無視して、仮想で延長した道路境界線から後退距離を算定しましょう。

「塀・ポーチ・物置」があるときの後退距離の考え方

道路境界線に沿って塀・門がある場合、後退距離は建物ではなく、原則として、塀や門から算定することになります。

『建築物に付属する門・塀=建築物』だからですね。

ただし、例外もあります。
以下の基準を満たした塀・ポーチ・物置などは、後退距離の緩和が使えます。

  1. 物置その他これに類する建築物
    • 軒の高さ ≦ 2.3m、かつ、床面積 ≦ 5㎡
    • 前面道路に面する長さ ≦ 敷地が前面道路に接する部分の長さ×1/5
    • 前面道路の境界線までの最短距離 ≧ 1m
  2. ポーチその他これに類する建築物
    • 高さ ≦ 5m
    • 前面道路に面する長さ≦敷地が前面道路に接する部分の長さ × 1/5
    • 前面道路の境界線までの最短距離 ≧ 1m
  3. 道路に沿つて設けられる門又は塀
    • 高さ ≦ 2m(高さが1.2mを超える部分が網状その他これに類する形状に限る)
  4. 隣地境界線に沿つて設けられる門・塀
  5. 歩廊、渡り廊下その他これらに類する建築物の部分
    • 特定行政庁がその地方の気候、風土の特殊性、土地の状況を考慮して規則で定めたもの
  6. 建築物の部分で高さが1.2m以下のもの

塀_道路斜線緩和

上記は、建築基準法の”施行令130条の12”に定められています。基本建築関係法令集 〔法令編〕を読んで原文を確認しておいてください。

後退距離に建築設備(給湯器・シャッターボックスなど)は含まれる?

Q. 道路境界線から最も近い位置に、建築設備がある場合は、設備の端部から後退距離を算定するのでしょうか?
A. 建築設備も考慮して後退距離を算定します。建築設備も建築物の一部だからです。
道路斜線緩和_後退距離_設備

キュービクル・受水槽などがあるときの後退距離

建築物に付属する受水槽やキュービクルが、建物から離れた位置にある場合であっても「建築設備=建築物の一部」のため、後退距離算定の対象。

道路斜線緩和_後退距離_受水槽

ただし、受水槽等の大きさや高さが以下の条件を満たす場合は、「後退距離に算定されない物置に類するもの」とみなし、後退距離の検討から除く緩和があります。

  • 軒の高さ ≦ 2.3m、かつ、床面積 ≦ 5㎡
  • 前面道路に面する長さ ≦ 敷地が前面道路に接する部分の長さ×1/5
  • 前面道路の境界線までの最短距離 ≧ 1m
道路斜線緩和_後退距離_受水槽緩和

『擁壁』は道路斜線の後退距離に含まれる?

Q.敷地と道路に高低差があり、「擁壁」で土を留めているとき、後退距離はどのように算定されますか?
A.後退距離の算定から除かれます。擁壁は工作物であり、建築物ではないからです。

図にすると以下のとおり。

道路斜線緩和_後退距離_擁壁

後退距離の緩和を使ったときの『適用距離』

Q.後退距離の緩和を使ったときの道路斜線の「適用距離」はどう取ればいいですか?
A.後退距離をふまえた「みなし道路境界線」から適用距離を算定します。

道路斜線_適用距離_後退緩和

上図のように、後退緩和による「みなし道路境界線」から適用距離を設定。

後退緩和を使うと適用距離の位置も変わるので、敷地内で道路斜線がかかる範囲も狭くなるってことですね。

まとめ

  • 道路斜線の制限には、道路境界線と建物が離れている距離(後退距離)に応じた緩和がある。
  • 後退距離は一の道路に対して、建築物との離隔が最短となる1ヶ所のみ。
  • 隅切りは後退距離の対象外。仮想で延長した道路境界線から後退距離を算定。
  • 道路境界線に沿って塀・門がある場合、塀や門から後退距離を算定。
  • 建築設備も考慮して後退距離を算定。建築設備も建築物の一部。
  • 擁壁は後退距離の算定から除く。擁壁は工作物であり、建築物ではないから。
  • 適用距離は、後退距離をふまえた「みなし道路境界線」から算定。