- 建築設計で廊下幅を決めるための基準が知りたい。
- そもそも住宅を設計しているときに、廊下幅を意識したことないけど大丈夫?
- 「両側居室」と「片側居室」ってなに?
こんな疑問に答えます。
建築設計において、最低限確保しなければならない廊下の幅は、建築基準法によって決まります。
本記事では、”廊下幅の基準”や”幅員を図る位置”など、設計における基礎知識をわかりやすく解説。
このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。
1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
建築設計における『廊下幅』とは
建築設計における『廊下幅』とは、建築基準法の避難規定(令119条)に定められた、「避難経路の有効幅」のことです。
ただし、避難規定は、すべての建築物にかかる制限ではありません。
例えば、2階建ての戸建住宅は、建築基準法の避難規定に非該当。
避難規定が適用されない建物は、廊下幅の最低限度がないため、設計者が自由に決めることが可能。
建築基準法における制限を受けない場合は、極端にいえば600㎜幅の廊下を設計しても、法律上の問題は無いわけですね。
もちろん、現実に火災が起きたときに廊下幅600㎜だと危険だと思うので、そこは設計者の判断次第。
例えば、居室から前室やホールを抜けて階段へと避難するケースでは、前室・ホールも「廊下」として扱います。
”学校”や”マンション”など、一般的な『廊下』のイメージにとらわれず、居室から階段への避難経路すべてを『廊下』とみなして設計しましょう。
廊下幅の制限がかかる建物【建築基準法|施行令117条】
廊下幅の制限がかかる建築物は以下のとおり。
- 法別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物
- 階数が3以上である建築物
- 採光無窓居室(採光に有効な窓面積<居室床面積×1/20)のある階
- 延べ面積が1000㎡をこえる建築物
先ほど例に挙げた、2階建ての戸建住宅に廊下幅の制限がかからない理由がわかりますよね。
“上記のいずれにも該当しないから”です。
廊下幅の基準
建物のどの部分に、どのくらいの廊下幅をとればいいかは、建築基準法の施行令119条に定められています。
(廊下の幅)
第119条 廊下の幅は、それぞれ次の表に掲げる数値以上としなければならない。
廊下の配置→
廊下の用途↓
両側に居室がある廊下 その他の廊下 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校における児童用又は生徒用のもの 2.3m 1.8m 病院における患者用のもの、共同住宅の住戸若しくは住室の床面積の合計が100㎡を超える階における共用のもの又は3室以下の専用のものを除き、居室の床面積の合計が200㎡(地階にあつては、100㎡)を超える階におけるもの 1.6m 1.2m
少し補足しておきたいのが「3室以下の専用」という言葉の意味。
「3室以下の専用」とは、ざっくり言うと、その廊下に面する出入口が3室以下であることを示します。
3室以下の専用廊下は、廊下幅の制限がかかりません。理由は、令119条の規定が免除されているから。
ただし、「3室以下の専用廊下」による緩和は、共同住宅には適用できないので注意しましょう。
「両側居室」と「片側居室」を図解
”両側に居室がある場合”と建築基準法に書かれていますが、どのような設計のことでしょうか?
一般的なイメージは以下のとおり。
さらに、両側居室の具体例を知りたい方は”防火避難規定の解説2023”という書籍が役に立ちます。以下のQ&Aを読んでみてください。
Q. 令第119条でいう「両側に居室がある廊下」とは、建築基準法研究会編「建築基準法質疑応答集」によると、「廊下をはさむ両側の居室の出入口がその廊下に面しているもの」すなわち「廊下の両側に出入口がある廊下」とされている。
よって下図のⒶ、Ⓑ、Ⓒの幅員は下記のように考えてよいか。
Ⓐ「その他の廊下」
Ⓑ「両側に居室がある廊下」
Ⓒ「その他の廊下」
A. Ⓐ~Ⓒの各部分ごとの幅員の考え方は貴見のとおりである。
なお、建築基準法質疑応答集には、”「両側に居室がある」部分と「その他」部分が存在する場合には、「両側に居室がある」部分から通常利用する屋外の出入口または階段までの間は全てを「両側に居室がある廊下」と考えることが望ましい。”とされていることから、下図のケースにおいては、Ⓐ及びⒸの幅員はⒷの幅員と同等以上に確保することが望ましい。
出典:「建築物の防火避難規定の解説2016」アフターフォロー質問と回答(2)
両側居室とみなされるパターンを覚えておけば、設計で迷うことも少なくなります。
廊下幅を測る位置
廊下幅を測る範囲は、原則として左右の壁と壁の間です。
「原則として…」とあえて書いたのは、もちろん例外があるから。
もしも、壁に手すりがあったり、窓の格子が突き出ているときには、その先端から有効幅を計測。
つまり、廊下の幅を狭くするような障害や突出は、まったく認められないということです。
確認検査機関で審査するにあたって、特に”福祉系の建物”で多いミスが、「手すり」があることによって廊下幅が確保できなかったというケース。
「階段の手すり」は、10㎝までであれば無いものとして考えられるので、廊下も同じだと勘違いする方が多いですね。
「階段」とは違い、「廊下」の手すりは、端部から有効幅を計測する必要があります。
設計の際は、避難経路に障害物がないか、必ずチェックするようにしましょう。
廊下幅が条例によって制限される場合がある
廊下幅は、建築基準法だけでなく、条例によって制限されることもあります。
とくに、特殊建築物は条例による廊下幅の制限が厳しいですね。
事例その①:大阪府 建築基準法施行条例
例として、大阪府の共同住宅用途にかかる条例の制限を引用します。
大阪府建築基準法施行条例
第 46 条(廊下の幅)
共同住宅は、-中略-
その用途の特性により、特に避難に際しての安全性、円滑性を確保することが重要である。そのため、避難経路の一つである廊下の幅員について建築基準法施行令より厳しい制限を付加し、施行令では規制の対象とならない小規模なものについても、その規制値を定めたものである。
建築基準法では階ごとの居室面積が100㎡を超えない限り、廊下幅の制限はないものの、条例によって居室面積100㎡以下でも幅900㎜という制限がかけられています。
大阪府では、どれだけ小規模な共同住宅を建築しようとも廊下の幅は900㎜必須となりますね。
事例その②:大阪府福祉のまちづくり条例
主に高齢者や不特定多数の方が利用する施設は、福祉のまちづくり条例といったバリアフリーに関する規制がかかります。
条例が適用される用途・規模は、各都道府県ごとに異なるので、設計にとりかかる前に調べておきましょう。
例えば、”大阪府福祉のまちづくり条例”の基準は以下のとおり。
大阪府福祉のまちづくり条例
第18条第 2 項
三 当該移動等円滑化経路を構成する廊下等は、第11条の規定によるほか、次に掲げる
ものであること。イ 幅は、120㎝以上とすること。
以下省略
条例による制限で、廊下の有効幅を1.2m確保することが義務づけられています。
上記で取り上げた大阪府だけでなく、都道府県・特定行政庁ごとに条例は定められているので、設計前に必ず下調べが必要。
条例のチェックは非常に重要なポイント。設計者が条例を見落として、建築基準法に不適合となることがしばしばあります。
建築設計をするときは、”条例の確認は必須”と意識しておきましょう。
建築基準法における『廊下幅』の条文を一度は読んでみるべき
建築基準法施行令119条の廊下幅に関連する規定には、必ず目を通しておきましょう。
『建築申請memo2024』や『建築法規PRO2024 図解建築申請法規マニュアル』の図や表でイメージを固めつつ、建築基準法の本文を読むことで、設計をするときの自信が変わってきます。
本質を捉えてないと、確信が持てませんからね。
廊下幅の設計では“防火避難規定の解説”をチェック
設計で廊下幅を決めるときには、必ず防火避難規定の解説2023の廊下に関する項目を読んでおきましょう。
「居室から廊下に出て、もう一度居室に戻る避難経路は不可」という事例や、「両側居室と片側居室の判断根拠」など、”防火避難規定の解説”でしか得られない情報があります。
まとめ
- 廊下幅とは、建築基準法令119条に定められた、避難経路の有効幅のこと。
- 居室を出て階段に至る経路は全て廊下と考えるべき。
- 廊下の幅を算定するとき、手すりなどの突出がある場合は端部から計測。
- 廊下幅は、建築基準法だけでなく、条例によって制限されていることも。