
- 隣地斜線(りんちしゃせん)制限って何?
- 隣地斜線制限は、どんな敷地にかかる?
- 高さ制限を緩和する方法が知りたい。
こんな悩みに答えます。
本記事では、建築基準法における『隣地斜線制限』について、わかりやすく解説。
建築物に対する高さ制限のひとつで、主に高さ20m以上の建築物を設計する際に欠かせない知識です。
✔️ 記事の内容
- 隣地斜線制限とは
- 検討が必要となる敷地
- 隣地斜線の計算式
- 隣地斜線の緩和

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
隣地斜線制限とは【隣地境界線からの高さ制限】
『隣地斜線制限』は、隣地とのあいだに採光・通風を確保する目的で定められている高さ制限です。
建築基準法による3つの斜線制限のひとつ。

主に高層建築物を対象としていて、高さ20m、または31mを超える計画に規制がかかります。
ここからは隣地斜線制限の具体的な基準について解説していきます。
隣地斜線制限が適用される地域
隣地斜線制限が適用される用途地域は、以下のとおり。
| 用途地域 | 立ち上がりの高さ | 斜線の勾配 |
|
H>20m (特定行政庁が都市計画審議会で指定した場合は、H>31m) |
1.25 (特定行政庁が都市計画審議会で指定した場合は、2.5) |
|
H>31m | 2.5 |
| 用途地域の指定のない区域 |
H>20m (特定行政庁が都市計画審議会で指定した場合は、H>31m) |
1.25 (特定行政庁が都市計画審議会で指定した場合は、2.5) |
逆に言えば、下記のような低層住居の専用地域には適用されないということですね。
- 一種低層住居専用地域
- 二種低層住居専用地域
- 田園住居地域内

低層住居地域では北側斜線や日影規制が厳しく、20mを超える建築物を建てることはないので隣地斜線は不要。
隣地斜線制限の計算方法
隣地斜線制限の計算式は、用途地域ごとに2パターンに分かれます。
- 住居系地域:20m+隣地境界線までの距離×1.25≧建築物の高さ
- 商業、工業系地域:31m+隣地境界線までの距離×2.5≧建築物の高さ
それぞれの制限を図解すると以下のとおり。



高さ20m以下の建築物を設計する場合は、隣地斜線の対象外ですね。
隣地斜線は敷地境界線の辺ごとに算定
隣地斜線制限は、隣地境界線に対して垂直方向にかかります。
つまり、隣地境界線がいびつな敷地(不整形の敷地)では、境界となる辺ごとに斜線の検討が必要。
下図は隣地境界線が屈曲した敷地における隣地斜線制限の図解。
天空率に関する資料ですが、なんとなくイメージはつかめるかと思います。

四角い敷地では検討が少なくて済むものの、境界線の折れ点が増えると、隣地斜線を検討するポイントも増えますね。
隣地斜線制限の緩和
隣地斜線制限には、建築基準法で定められた緩和があります。
✔️ 隣地斜線制限の緩和方法
- 後退距離(セットバック)による緩和
- 隣地との高低差による緩和
- 隣地に公園、広場、水面がある敷地の緩和
後退距離(セットバック)による緩和
隣地斜線制限には、隣地境界線から建物をセットバックさせることによる緩和があります。


✔️ セットバック緩和による計算式
- 住居系地域:20m+(隣地境界線までの距離+セットバック距離)×1.25≧建築物の高さ
- 商業・工業系地域:31m+(隣地境界線までの距離+セットバック距離)×2.5≧建築物の高さ
隣地境界から計画する建築物を離せば離すほど緩和が適用され、より高い建物が設計可能に。
隣地との高低差による緩和
計画敷地が隣地の地盤面よりも1m以上低い場合、隣地斜線制限が緩和されます。

✔️ 高低差緩和による計算式
ただし、隣地のレベル(地盤の高さ)を測るのは、非常にむずかしいので実務では適用しづらいかもしれません。

隣地レベルを詳しく計測できるときにだけ使える緩和規定ですね。
隣地に公園、広場、水面がある敷地の緩和
計画敷地が以下のいずれかに面しているときは、隣地斜線制限が緩和されます。
- 公園
- 広場
- 水面

将来にわたって空地であり、一般の方の所有する敷地とならないことが条件。
✔️ 緩和が使える公園・広場
- 都市公園法にもとづく公園・緑地
- 公共団体が所有・管理する公開広場
さらに、以下のような空地も特定行政庁・確認検査機関に認められれば緩和が適用できます。
- 開発行為による帰属公園
- 都市計画公園で事業認可されている空地
緩和が使える水面かどうかは、下記の方法でチェックしましょう。
- 公図による確認
- 現地にて空間があることを確認
- 将来にわたって空間が確保されること
- 道路区域明示図による確認
隣地斜線制限について建築基準法を読む
隣地斜線制限は、建築基準法56条に定められています。
「建築基準法を読みたくない」という方は、建築法規PRO2025 図解建築申請法規マニュアル
や最新改訂版 確認申請[面積・高さ]算定ガイドといった書籍で、図や表を見て理解するのがおすすめです。
(建築物の各部分の高さ)
第56条 建築物の各部分の高さは、次に掲げるもの以下としなければならない。一 中略
二 当該部分から隣地境界線までの水平距離に、次に掲げる区分に従い、イ若しくはニに定める数値が1.25とされている建築物で高さが20mを超える部分を有するもの又はイからニまでに定める数値が2.5とされている建築物(ロ及びハに掲げる建築物で、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内にあるものを除く。以下この号及び第七項第二号において同じ。)で高さが31mを超える部分を有するものにあつては、それぞれその部分から隣地境界線までの水平距離のうち最小のものに相当する距離を加えたものに、イからニまでに定める数値を乗じて得たものに、イ又はニに定める数値が1.25とされている建築物にあつては20mを、イからニまでに定める数値が2.5とされている建築物にあつては31mを加えたもの
イ 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物又は第一種住居地域、第二種住居地域若しくは準住居地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。) 1.25(第52条第一項第二号の規定により容積率の限度が30/10以下とされている第一種中高層住居専用地域及び第二種中高層住居専用地域以外の地域のうち、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内の建築物にあつては、2.5)
ロ 近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。)又は商業地域、工業地域若しくは工業専用地域内の建築物 2.5
ハ 高層住居誘導地区内の建築物であつて、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であるもの 2.5
ニ 用途地域の指定のない区域内の建築物 1.25又は2.5のうち、特定行政庁が土地利用の状況等を考慮し当該区域を区分して都道府県都市計画審議会の議を経て定めるもの
また、隣地斜線の緩和は、建築基準法の施行令135条の3。
(隣地との関係についての建築物の各部分の高さの制限の緩和)
第135条の3法第56条第6項の規定による同条第1項及び第5項の規定の適用の緩和に関する措置で同条第1項第二号に係るものは、次に定めるところによる。
一 建築物の敷地が公園(都市公園法施行令(昭和三十一年政令第二百九十号)第2条第1項第一号に規定する都市公園を除く。)、広場、水面その他これらに類するものに接する場合においては、その公園、広場、水面その他これらに類するものに接する隣地境界線は、その公園、広場、水面その他これらに類するものの幅の二分の一だけ外側にあるものとみなす。
二 建築物の敷地の地盤面が隣地の地盤面(隣地に建築物がない場合においては、当該隣地の平均地表面をいう。次項において同じ。)より1m以上低い場合においては、その建築物の敷地の地盤面は、当該高低差から1mを減じたものの1/2だけ高い位置にあるものとみなす。
まとめ
- 隣地斜線制限は、隣地とのあいだに採光・通風を確保する目的で定められている高さ制限。
- 隣地斜線制限が適用される用途地域は一覧表でチェック。
- 隣地斜線制限の計算式は、用途地域ごとに2パターン。
- 住居系地域:20m+隣地境界線までの距離×1.25≧建築物の高さ
- 商業、工業系地域:31m+隣地境界線までの距離×2.5≧建築物の高さ
- 隣地斜線は、隣地境界線の辺ごとに検討が必要。
- 隣地斜線制限の緩和方法
- 後退距離(セットバック)による緩和
- 隣地との高低差による緩和
- 隣地に公園、広場、水面がある敷地の緩和




![最新改訂版 確認申請[面積・高さ]算定ガイド](https://m.media-amazon.com/images/I/51g2KF6V3XL._SL160_.jpg)

