『二以上の直通階段』の制限とは|建築基準法による規制・緩和を解説

二以上の直通階段 避難規定
  • 直通階段が2つ必要な建築物って、どんな用途・規模?
  • 「2以上の直通階段」の規定を緩和する方法は?
  • 6階建て共同住宅の階段を1ヶ所にしたい。

こんな悩みに答えます。

 

本記事では、建築基準法における「二以上の直通階段」の制限について解説。

直通階段が2つ必要となる建物用途・規模をわかりやすくまとめます。

✔️ 記事の内容

  • 二以上の直通階段の要否判定
  • 避難時の歩行距離、重複距離
  • 制限を緩和する方法

ちなみに、一般的な「階段」と「直通階段」では意味が違います。

 

直通階段について詳しく知りたい方は、直通階段とは|建築基準法における『直通階段』の設置基準まとめの記事をご確認ください。

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住宅から特殊建築物まで1000件以上の設計相談を受けた経験をもとに、建築基準法の知識をわかりやすくまとめていきます。ご参考までにどうぞ。

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「二以上の直通階段」の制限とは【二方向避難】

建築基準法では、一定の用途・床面積・階数の建物に、2つ以上の直通階段を設けるよう定めています。

避難規定の一種で、建築基準法施行令121条にもとづく制限。

二以上の直通階段とは

災害時に、片方の避難経路がふさがっても、もう一方の経路で逃げられるよう階段を2つ設置します。

いわゆる二方向避難にほうこうひなんですね。

 

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二以上の直通階段が必要となる建築物

二以上の直通階段が必要となる建築物を一覧表にまとめると、下記のとおりです。

直通階段が2つ以上必要となる条件【一覧表】

用途および階 対象となる階 規模 緩和の有無
1 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 客席、集会室等のある階 規模に関わらず、全てに適用
2 物品販売業を営む店舗(床面積>1500㎡) 売り場のある階 規模に関わらず、全てに適用
3 キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、個室付浴場業その他の施設、ヌードスタジオその他の興行場、異性を同伴する客の休憩施設、店舗型電話異性紹介営業その他を営む店舗 客席、客室等のある階 全てに適用 緩和あり
4 病院、診療所、児童福祉施設等 病室、主たる用途の居室のある階 床面積>50㎡

(主要構造部が準耐火構造or不燃材料の場合は、床面積>100㎡)

5 ホテル、旅館、下宿、共同住宅 宿泊室、居室、寝室のある階 床面積>100㎡

(主要構造部が準耐火構造or不燃材料の場合は、床面積>200㎡)

1~5に該当しない階 6階以上の階 居室のある階 規模に関わらず、全てに適用 緩和あり
5階以下の階 避難階の直上階 居室のある階 床面積>200㎡

(主要構造部が準耐火構造or不燃材料の場合は、床面積>400㎡)

その他の階 居室のある階 床面積>100㎡

(主要構造部が準耐火構造or不燃材料の場合は、床面積>200㎡)

要否の判定は、2つの要素の組み合わせで決まります。

  1. 建物の用途、床面積
  2. 建物の床面積、階数

特に、②は建物の用途に関わらず検討が必要。

事務所や工場など建築基準法(別表1)の特殊建築物にあたらない場合でも、建物の用途・規模によっては直通階段が2ヶ所必要となります。

どのような建物用途でも、二以上の直通階段の要否判定は欠かせないということを覚えておきましょう。

 

二以上の直通階段の歩行距離・重複距離

階段の位置は、建築基準法に定められた「居室から階段までの歩行距離」を考慮して決めます。

特に、「二以上の直通階段」の制限がかかる場合は、(歩行距離の)重複距離の基準も満たす必要があるため要注意。

 

✔️ 重複距離とは、ある居室から階段へ避難するときに経路が重なる部分のこと

二以上の直通階段_重複距離_歩行距離

 

建築基準法による歩行距離と重複距離の数値をまとめると以下のとおりです。

✔️ 居室から直通階段にいたる歩行距離(令120条)

構造

居室の種類

主要構造部が準耐火構造、または不燃材料で造られている場合 その他の場合
(1) 令116条の2第1項一号にあたる開口部を有しない居室

または

法別表第一(い)欄(四)項の特殊建築物の主たる用途に供する居室

30 30
(2) 法別表第一(い)欄(二)項の特殊建築物の主たる用途に供する居室 50 30
(3) (1)または(2)以外の居室 50 50

✔️ 重複距離の制限(令121条)

重複距離は、上記の歩行距離の1/2以下にすること

 

二以上の直通階段の緩和

二以上の直通階段の制限には、緩和規定があります。

大きく分けると以下の2パターン。

  1. 階数6以上で一定の建物用途に対する緩和
  2. キャバレー、ナイトクラブの用途に対する緩和

 

階数6以上で一定の建物用途に対する緩和【共同住宅に適用できる】

6階以上の階に居室がある建築物には、原則として直通階段が2つ以上必要。

ですが、以下のすべての条件を満たす場合は免除されます。

※1:令121条1項一号~四号の建物用途(一部抜粋)

  1. 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
  2. 物品販売業を営む店舗
  3. キャバレー、ナイトクラブ、バー等
  4. 病院、診療所、児童福祉施設等

 

共同住宅・ホテル・旅館は、令121条1項五号に書かれた建物用途なので、階数6以上であっても、緩和規定を満たすことで「二以上の直通階段」の免除が可能。

もちろん令121条に書かれていない用途(事務所・工場など)にも緩和は適用できます。

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キャバレー、ナイトクラブの用途に対する緩和

以下の用途の建物には、二以上の直通階段の制限に関する緩和があります。

  • キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー
  • 個室付浴場業など、客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する施設
  • ヌードスタジオその他の興行場
  • 専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設

 

上記用途で以下の①、または②の条件を満たすことができれば、直通階段を1ヶ所で設計することが可能。

✔️ 緩和①

  • 5階以下の階であること
  • その階の居室の床面積の合計が100㎡以下
  • 避難上有効なバルコニー、屋外通路などを設置
  • 屋外避難階段、または特別避難階段を設置

✔️ 緩和②

  • 避難階の直上階、または直下階
  • 5階以下の階
  • その階の居室の床面積の合計が100㎡以下

 

「二以上の直通階段」について建築基準法を読む

二以上の直通階段の規定は、建築基準法の施行令121条に書かれています。

「建築基準法を読みたくない」という方は、建築法規PRO2025 図解建築申請法規マニュアル 建築申請memo2025 といった書籍で、図や表を見て理解するのがおすすめです。

(二以上の直通階段を設ける場合)
第121条 建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。

以下省略

歩行距離の重複距離は、令121条3項。

3 第1項の規定により避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設ける場合において、居室の各部分から各直通階段に至る通常の歩行経路のすべてに共通の重複区間があるときにおける当該重複区間の長さは、前条に規定する歩行距離の数値の1/2をこえてはならない。

ただし、居室の各部分から、当該重複区間を経由しないで、避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するものに避難することができる場合は、この限りでない。

 

まとめ

  • 建築基準法では、直通階段を2つ以上もうけるよう制限がある。
  • 二以上の直通階段が必要となる建築物は、一覧表でチェック。
  • 階段の位置は、「居室から階段までの歩行距離(令120条)」を考慮して決定。
    • 重複距離(令121条)の基準も満たす必要あり
  • 二以上の直通階段の制限には、緩和規定がある。
    1. 階数6以上で一定の建物用途に対する緩和:以下のすべてを満たすもの
      • 令121条1項一号~四号(※1)以外の用途であること
      • その階の居室の床面積の合計が、100㎡以下
      • 避難上有効なバルコニー、屋外通路などを設置
      • 屋外避難階段、または特別避難階段を設置
    2. キャバレー、ナイトクラブの用途に対する緩和

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