
- 北側斜線(きたがわしゃせん)って何?
- どんな建物に制限がかかる?
- 北側斜線の計算方法を詳しく知りたい。
こんな悩みに答えます。
本記事では、建築基準法における『北側斜線制限』について解説。
✔️ 記事の内容
- 北側斜線制限の基準
- 制限が適用される建築物
- 北側斜線の計算方法
- 北側斜線の緩和
北側斜線制限は、(低層or高層)住居専用地域の高さに対する規制です。
主に戸建て住宅を手がける設計者にとっては必須の知識。記事を読むことで、北側斜線制限の本質がつかめると思います。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
北側斜線制限とは【建築基準法による高さ制限】
『北側斜線制限』は、北側にある隣地の日照環境(日当たり)を守るために、建築基準法で定められている高さ制限です。
高い建物を設計すればするほど、南からの太陽光を遮ってしまい、となりの敷地の日当たりが悪くなってしまいます。

お隣さんからすれば、「南側に高い建物ができる=日影ができて困る」。
よって、住居系の用途地域では、建築基準法にもとづき、一定の高さまでしか建てられないよう規制がかけられています。
北側斜線制限が適用される地域
北側斜線制限は、以下の用途地域に建築物を建てるときにかかる規制。
- 一種低層住居専用地域
- 二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
- 一種中高層住居専用地域
- 二種中高層住居専用地域
ただし、上記に当てはまる場合でも「日影規制の対象地域」は、北側斜線の制限が免除されています。
✔️ ”日影規制が指定された地域”は北側斜線が免除(※建築基準法56条 抜粋)
(建築物の各部分の高さ)
第56条 建築物の各部分の高さは、次に掲げるもの以下としなければならない。
中略
三 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域若しくは田園住居地域内又は第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域(次条第1項の規定に基づく条例で別表第四の二の項に規定する(一)、(二)又は(三)の号が指定されているものを除く。以下この号及び第7項第三号において同じ。)内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線までの真北方向の水平距離に一・二五を乗じて得たものに、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域又は田園住居地域内の建築物にあつては五メートルを、第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域内の建築物にあつては十メートルを加えたもの
上記の法文で「次条第1項の規定に基づく条例」とあり、法56条の次の条項は”法56条の2:日影による中高層の建築物の高さの制限”であることから、北側斜線の除外が読み取れます。


つまり、「北側斜線の制限が適用される地域は限られている」ということ。商業系、工業系の用途地域では検討不要ですね。
北側斜線制限の計算方法
用途地域ごとの北側斜線制限を計算式で表すと、以下のとおり。
- 一種・二種低層住居、田園住居地域:5m + 1.25 × 水平距離 > 検討する建物の高さ
- 一種・二種中高層住居地域:10m + 1.5 × 水平距離 > 検討する建物の高さ
※水平距離:隣地境界線 or 前面道路の反対側の境界線から建築物までの真北方向の水平距離
実際の設計で北側斜線を検討するときは、以下の手順で行いましょう。
✔️ 北側斜線の検討フロー
- 真北の方向を確認する
- 北側斜線の水平距離をチェック【配置図】
- 地盤面に高低差があるときは、平均地盤面を確認【立面図】
- 建物に対する北側斜線を図示【立面図】
- 計算式を書いて最終チェック
真北(しんぼく)の調べ方
北側斜線は、真北の方向から検討します。
真北は、原則として現地測量で調査。
ただし、特定行政庁によっては「白地図をもとに真北を割り出してもよい」というケースも。

北側斜線ぎりぎりの建物を設計する場合は、真北の測定方法について、確認検査機関と事前協議をおこないましょう。
【注意】真北と磁北の違い
真北と磁北(じほく)は異なります。
✔️ 真北と磁北の違い
- 真北:北極点の方向(ある地点を通過する経線、または子午線が示す北)
- 磁北:磁石で表示される北の方向
出典:国土地理院

北側斜線のかかる北の方向(真北)は、方位磁石で表示されるN極(磁北)ではありません。
真北測定器などにより、現地で求める方向が「真北」となります。
北側斜線制限は平均地盤面から計算
北側斜線制限のスタート位置は「平均地盤面」。
✔️ 平均地盤面とは
- 建築物が周囲の地面と接する平均の高さ
- 高低差が3mを超える場合は、高低差3m以内ごとの平均の高さ

建築物の接する地面に高低差がある場合は、地盤高さの平均をとって、仮想の水平面を測定するわけですね。

高さ制限に余裕があり、平均地盤面の計算が面倒なときは、建物が接する最も低い位置を地盤面とみなした”不利側検討”でもOK。
北側斜線制限の緩和
北側斜線制限には、建築基準法で定められた緩和があります。
✔️ 北側斜線の緩和
- 道路
- 河川・水路に面する敷地
- 高低差緩和(北側の隣地が計画地よりも1m以上高い場合)
北側に道路があるときの緩和
敷地の真北方向に道路が面する場合、北側斜線の制限が緩和されます。
河川・水路に面する敷地の緩和
敷地の真北方向に河川・水路が面する場合、北側斜線の制限が緩和されます。
北側隣地が計画地よりも1m以上高いときの緩和
真北方向にある隣地の地盤面が、計画地よりも1m以上高いとき、北側斜線の制限が緩和されます。
北側斜線制限と高度地区制限の違い
「北側斜線制限」と「高度地区による斜線制限」は、まったく別の基準。
「真北方向から斜線を引いて、建物の高さが制限されるという点は同じ」なので、混同している設計者の方がいます。
これは危険な間違い。
基準の違いをまとめると以下のとおりです。
- 『北側斜線制限』は、建築基準法で定められている
- 『高度地区の制限』は、都市計画法に基づいて、自治体が定めている
✔️ 「北側斜線制限」と「高度地区による制限」の違い
北側斜線制限 | 高度地区 | |
建築基準法の条項 | 法56条 | 法58条 |
制限が適用される地域 |
|
各自治体が定めた高度地区内 |
高さ制限の概要 | 「5m+水平距離× 1.25」または「10m+水平距離× 1.5」 | 各自治体が定める高さ制限 |
天空率 | 適用できる | 適用できない |
高度地区による高さ制限の調べ方
高度地区にある敷地は、「高度地区にもとづく高さ制限」を受けます。
高度地区の制限内容は、インターネット調べることが可能です。
「◯◯(特定行政庁名) 高度地区」で検索してみましょう。
特に、一種低層住居専用地域など、北側斜線制限と高度地区制限の両方が適用される敷地では、高度地区の方が厳しくなるケースも。
例えば、神戸市を見てみると…
神戸市の第一種高度地区では、「5m+水平距離×0.6」の高さ制限。
これは、低層住居専用地域の北側斜線制限「5m+水平距離×1.25」よりも、さらに厳しいですね。

高度地区によって高さの限度が決まることも多いので注意しましょう。
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【よくある質問】ペントハウスは北側斜線の対象外?
ただし、絶対高さ(10mまたは、12m)のラインからは突出させてもOK。
階数に算入されないペントハウスであっても、北側斜線は超えることができません。
まとめ
- 北側斜線制限は、北側にある隣地の日照を守るために、建築基準法で定められている高さ制限。
- 北側斜線制限は、以下の用途地域にかかる規制。
- 一種低層住居専用地域
- 二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
- 一種中高層住居専用地域
- 二種中高層住居専用地域
- 「日影規制の対象地域」は、北側斜線の制限が免除。
- 用途地域ごとの北側斜線制限を計算式で表すと、以下のとおり。
- 一種・二種低層住居、田園住居地域:5m+1.25×水平距離
- 一種・二種中高層住居地域:10m+1.5×水平距離
- 北側斜線は、真北の方向から検討。
- 北側斜線のスタート位置は「平均地盤面」。
- 北側斜線制限の緩和が使えるケース
- 北側に道路がある敷地
- 河川・水路に面する敷地
- 北側の隣地が計画地よりも1m以上高い敷地