- 保育所の設計は初めてで、建築基準法に適合しない部分がないか不安。
- 建築確認を出すにあたって注意点があれば教えてほしい。
こんな疑問に答えます。
本記事では、保育所を設計するときに注意したい4つのポイントを紹介。
保育所は建築基準法において「児童福祉施設等」という用途に分類されていてされていて、設計の難易度が高めです。
記事を読むことで、最低限知っておくべき知識が身につくかと。
このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。
住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識を、できるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。
保育所の設計では「保育園の設置基準」に要注意
保育所には、建築基準法とは別に、内閣府などから認可を受けるために満たすべき「設置基準」があります。
保育所を建築するにあたって、検討しなければいけない規制は、建築基準法だけではないということですね…。
特に気をつけたいのは「保育園の設置基準」が、確認申請において審査対象とならない点。
確認済証が交付された建築物だとしても、「保育園の設置基準」に適合しているとは限らない、ということですね。
確認申請では、あくまでも建築基準法の関係規定に適合するかどうかのみを審査します。
確認検査機関の検査員は、保育所の設置基準について詳しく知らない方も多いですし、基準を満たしていなくても、建築基準法に適合していれば確認済証が交付されます。
確認済証が交付されるのであれば問題ないのでは?
検査機関による審査が無いことにより、設計者が「保育園の設置基準」をよく理解していないと、認可が受けられない設計をしてしまう恐れがあります。
確認検査機関で聞いた話ですが、準耐火建築物として確認済証を交付した物件が、施工中に「保育園の設置基準」で耐火建築物にしなければならなかったことが発覚。建築主が大きな被害を受けた事例もあるとか。
建築基準法だけにとらわれず「保育園の設置基準」にも注意しましょう。
保育室には「採光に有効な窓」を設ける義務がある
保育室は、建築基準法施行令19条において、採光をとることが義務づけられた居室です。
つまり、「採光に有効な窓」を建築基準法に定められた面積以上設置しなければいけないということ。
保育室の採光に必要な窓面積は、以下の計算式で決まります。
敷地いっぱいに保育所を建てる場合など、隣地境界線が近いことにより採光がとりづらい計画では、慎重に検討を行いましょう。
ちょっとした採光面積の計算ミスで基準を満たさなくなると、設計を全面的に見直すはめになります。
直通階段が2つ以上必要かどうか検討する
建築基準法では、一定の用途・規模の建物に対して、「2つ以上の直通階段」を設けなければならないという規定があります。
予算などの都合から、たいていの設計者は直通階段を一つで済ませたいはず…。
ただ、保育所など「児童福祉施設等」は、直通階段が2つ必要となる条件が他の用途に比べてきびしい。
建築基準法施行令121条をご覧ください。
(2以上の直通階段を設ける場合)
第121条
建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。
中略
四 病院若しくは診療所の用途に供する階でその階における病室の床面積の合計又は児童福祉施設等の用途に供する階でその階における児童福祉施設等の主たる用途に供する居室の床面積の合計が、それぞれ50㎡を超えるもの
「保育所用途のある階」の居室面積が50㎡を超えた時点で、直通階段が2つ以上必要となります。(※準耐火構造等であれば緩和があるため、100㎡まで)
保育園児は火災時に逃げ遅れる危険性が高く、避難の時間をできるだけ短縮するための法律であり、理にかなっていると思います。
保育所以外の用途で設計に慣れている方は、いつもと同じ感覚で設計すると、直通階段の数の検討を忘れることが多いので気をつけましょう。
保育所への『用途変更』では、直通階段の数に要注意
例えば、事務所ビルの2階部分を保育所に用途変更する計画について考えてみましょう。
現在、2階の事務所の居室面積は150㎡だとします。
事務所用途のままであれば、居室面積が200㎡以下の場合、直通階段は一つで問題ありません。(令121条1項六号)
しかし、保育所に用途を変更する場合は、居室面積が50㎡を超えた時点で「2以上の直通階段」が必要となります。
つまり、上記の例であれば、屋外階段の『増築』も同時に行わなければ、保育所への用途変更ができないということですね。
保育所には「防火上主要な間仕切壁」の設置が必要
保育所をはじめとする児童福祉施設には「防火上主要な間仕切壁」の設置が必要。
「防火上主要な間仕切壁」については、建築基準法施行令114条に定められています。
(建築物の界壁、間仕切壁及び隔壁)
第114条
1 省略
2 学校、病院、診療所(患者の収容施設を有しないものを除く。)、児童福祉施設等、ホテル、旅館、下宿、寄宿舎又はマーケットの用途に供する建築物の当該用途に供する部分については、その防火上主要な間仕切壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の間仕切壁を除く。)を準耐火構造とし、第112条第2項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。以下省略
肝心の「防火上主要な間仕切壁」をどこに設けなければいけないのか、という点について、建築基準法には書かれていません。
「防火上主要な間仕切壁」の設置位置や構造は、“防火避難規定の解説2023”という書籍にのみ記載されています。
“防火避難規定の解説”という本が、保育所の設計には必須
防火上主要な間仕切壁の位置は、おおまかに言えば、以下のルールに沿って決まります。
- 保育室が3室以下かつ100㎡以内となるように、間仕切り壁を配置
- 居室と避難経路を区画するように、間仕切り壁を配置
- 火気使用室とその他の部分を区画するように、間仕切り壁を配置
詳しい内容は必ず“防火避難規定の解説2023”という書籍でご確認ください。
“防火避難規定の解説”は「日本建築行政会議」にて編集されており、読んで字のごとく、建築基準法の防火避難規定を解説する目的で書かれています。
特定行政庁も確認検査機関も、“防火避難規定の解説”を参考にして、法律に適合するかどうかを判断しています。
“防火避難規定の解説2023”を読んでいなければ、保育所などの特殊建築物の設計はできないと言っても過言ではないかと。
保育所は「福祉のまちづくり条例」を要チェック
バリアフリー法(正式名称:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)は建築基準関係規定のため、確認申請において審査対象となる法文。
さらに、バリアフリー法にもとづいて、各行政庁が「福祉のまちづくり条例」という条例を定めています。この条例によって、保育所は小規模であってもバリアフリー化を求められることが多いかと。
福祉のまちづくり条例の要否については、各特定行政庁のホームページを見るか、確認検査機関に相談しましょう。
※バリアフリー法の条文を参考までに掲載しておきます。
(特別特定建築物の建築主等の基準適合義務 等)
第14条
建築主等は、特別特定建築物の政令で定める規模 以上の建築(用途の変更をして特別特定建築物にすることを含む。以下この条において同じ。)をしようとするときは、当該特別特定建築物(次項において「新築特別特定建築物」という。)を、移動等円滑化のために必要な建築物特定施設の構造及び配置に関する政令で定める基準(以下「建築物移動等円滑化基準」と いう。)に適合させなければならない。
2 省略
3 地方公共団体は、その地方の自然的社会的条件の特殊性により、前2項の規定のみによっては、高齢者、障害者等が特定建築物を円滑に利用できるようにする目的を十分に達成することができないと認める場合においては、特別特定建築物に条例で定める特定建築物を追加し、第1項の建築の規模を条例で同項の政令で定める規模未満で別に定め、又は建築物移動等円滑化基準に条例で必要な事項を付加することができる。
4 前3項の規定は、建築基準法第6条第1項に規定する建築基準関係規定とみなす。
以下省略
まとめ
この記事で挙げた4つの注意点以外にも、保育所(児童福祉施設等)の設計で理解しておくべき建築基準法の基準は数多くあります。
建築基準法令集を読むのが好きではない、手っ取り早く保育所設計のポイントを押さえたいという方には、[用途別]建築法規エンサイクロペディアという書籍がおすすめ。
設計している建物用途ごとに、建築基準法や消防法などの規制が整理されているので、設計条件の把握に便利です。
確認検査員として働いていたとき、初めて審査する用途のときは、[用途別]建築法規エンサイクロペディアを読むようにしていました。
- 保育所の「設置基準」を必ず確認すること
- 保育室は「採光に有効な窓」を建築基準法に定められた面積以上設置
- 「2以上の直通階段」の要否を検討すること
- 保育所には、防火上主要な間仕切壁の設置が必須
- 保育所の設計には”防火避難規定の解説2023”という書籍がおすすめ
- バリアフリー法・福祉のまちづくり条例の基準を事前に調べましょう