- 長屋って何?
- 設計するときの注意点が知りたい。
- “戸建て住宅”や“共同住宅”とは、どう違う?
こんな悩みに答えます。
本記事では、建築基準法にもとづく長屋の定義・設計方法について解説。
特に、長屋をはじめて計画する建築士の方にとって役立つ情報です。
このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで1000件以上の設計相談を受けた経験をもとに、建築基準法の知識をわかりやすくまとめていきます。ご参考までにどうぞ。
長屋とは
長屋とは、2つ以上の住戸が連なった建築物です。
住戸の間は壁(界壁)で仕切られていて行き来ができず、それぞれの住戸に外部出入口を持つもの。
2階建てや3階建てで設計することが多いですね。
長屋は特殊建築物に該当せず、防火上の制限が比較的ゆるいことから、木造でも数多く建てられています。
重層長屋とは
長屋のなかでも、上下階で住戸が別れたものを重層長屋(じゅうそうながや)と呼びます。
長屋と共同住宅の違い
長屋と共同住宅の違いは、共用部(共用廊下・共用階段)があるかどうかです。
長屋とは、1 棟で共有部分を有しない住戸が 2 戸以上のものまたは住室の形式が界壁を共有して連続しているもの、または、重ね建て等になっている形態のものをいい、共用部分を有する住戸であれば共同住宅になる。
この場合、住戸とは専用の居住室、台所、便所及び出入り口を有しているものをいい、住室とは住戸の要件のうち台所または便所を有していないものをいう。
出典:大阪府内建築行政連絡会議
- 長屋:住戸ごとに屋外へ直接出入りできる
- 共同住宅:共用廊下や階段を経由して屋外へ出入りする
長屋は特殊建築物に該当しない
建築基準法の制限において、共同住宅と長屋の大きな違いは、特殊建築物にあたるかどうかです。
長屋は、特殊建築物ではありません。
- 長屋:特殊建築物ではない
- 共同住宅:特殊建築物
特殊建築物には、防火・避難上の厳しい制限が課されることに。
共同住宅(特殊建築物)に比べると、長屋は設計の自由度が高いと言えます。
行政ごとの建築基準法施行条例を確認
長屋の設計では、各自治体が定めている建築基準法施行条例を必ずチェックしましょう。
例えば、東京都の条例を抜粋すると以下のとおり。
(長屋の主要な出入口と道路との関係等)
第五条 長屋の各戸の主要な出入口は、道路に面して設けなければならない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 その出入口の前面に、幅員三メートル(出入口が道路に面しない住戸の床面積の合計が三百平方メートル以下(当該住戸がいずれも床面積四十平方メートルを超える場合は、四百平方メートル以下)で、かつ、当該住戸の数が十以下の場合は、二メートル)以上の通路で、道路に三十五メートル以内で避難上有効に通ずるものを設けた場合
二 その出入口の前面に、幅員四メートル以上の通路で、道路に避難上有効に通ずるものを設けた場合
2 長屋の各戸の居住の用に供する居室のうち一以上は、次に定めるところによらなければならない。
一 道路又は道路に避難上有効に通ずる幅員五十センチメートル以上の通路に面する窓その他の避難上有効な開口部(前項に定める主要な出入口を除く。)を設けること。
二 前号の開口部を避難階以外の階に設ける場合は、当該居室に避難上有効なバルコニー又は器具等を設けること。
3 前二項の規定は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、適用しない。
4 木造建築物等である長屋(耐火建築物又は準耐火建築物を除く。)にあつては、主要な出入口が第一項の通路のみに面する住戸の数は、三を超えてはならない。
各住戸の出入口が道路に面していない場合、建築基準法にはない厳しい制限がかけられていますね。
界壁に防火性能・遮音性能が必要
長屋の住戸間の壁は「界壁」と呼ばれ、建築基準法によって2つの性能が求められます。
- 防火性能(建築基準法施行令114条)
- 遮音性能(建築基準法30条)
出典:吉野石膏
界壁の設計基準をまとめると以下のとおり。
- 界壁は、以下の両方の基準を満たす必要あり。
- 遮音性能
- 防火性能
- 遮音性能は、告示仕様か大臣認定仕様のどちらかを選択。
- 告示仕様:”建設省告示第1827号”に定められた仕様
- 大臣認定仕様:認定番号「SOI」を取得している仕様
- 防火性能は「準耐火構造」以上。告示仕様と大臣認定仕様のいずれかを選択。
- 告示仕様:“建設省告示 1358 号”に定められた仕様
- 大臣認定仕様:認定番号「QF」を取得している仕様(QF045BP-9071など)
- 界壁にコンセントを設ける場合、コンセントボックス周りに防火被覆を施すこと。
さらに詳しく知りたい方は、『界壁』の仕様とは|建築基準法における遮音性能・耐火構造を解説の記事をご確認ください。
長屋を設計するときの考え方
長屋は、複数の戸建て住宅が一体になったものと考えればOK。
住戸ごとに適用される建築基準法の規定は、戸建て住宅と同じですね。
✔️ 戸建て住宅と長屋に共通する法規
- LVS(無窓居室の確認)
- シックハウス対策(24時間換気)
- 住宅用火災警報器の設置
また、以下の要件を満たす場合は、居室の排煙窓に関する検討が免除となります。
- 2階建てで、各住戸の床面積200㎡以下
- 居室に”床面積の1/20以上の換気上有効な窓”を設置
これは、建設省告示1436号にもとづく緩和。
火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分を定める件
建築基準法施行令(以下「令」という。)第百二十六条の二第一項第五号に規定する火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分は、次に掲げるものとする
中略
四 次のイからホまでのいずれかに該当する建築物の部分
イ 階数が二以下で、延べ面積が二百平方メートル以下の住宅又は床面積の合計が二百平方メートル以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の二十分の一以上の換気上有効な窓その他の開口部を有するもの
以下省略
2階建て住宅の設計経験がある方には、なじみ深い告示だと思います。
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長屋について建築基準法を読む
長屋の界壁に関する基準は、建築基準法30条に規定。
「建築基準法を読みたくない」という場合は、建築法規PRO2024 図解建築申請法規マニュアルや建築申請memo2024といった書籍で、図や表を見て理解を深めていきましょう。
(長屋又は共同住宅の各戸の界壁)
第三十条
長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。
一 その構造が、隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものであること。
二 小屋裏又は天井裏に達するものであること。
2 前項第二号の規定は、長屋又は共同住宅の天井の構造が、隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために天井に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものである場合においては、適用しない。
界壁の遮音性能については、建築基準法施行令22条の3。
第二節の三 長屋又は共同住宅の界壁の遮音構造等
第二十二条の三
法第三十条第一項第一号(法第八十七条第三項において準用する場合を含む。)の政令で定める技術的基準は、次の表の上欄に掲げる振動数の音に対する透過損失がそれぞれ同表の下欄に掲げる数値以上であることとする。
以下省略
界壁の防火性能は、建築基準法施行令114条に定められています。
(建築物の界壁、間仕切壁及び隔壁)
第百十四条
長屋又は共同住宅の各戸の界壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の界壁を除く。)は、準耐火構造とし、第百十二条第四項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。
まとめ
- 長屋とは、2つ以上の住戸が連なった建築物。
- 住戸の間は界壁によって行き来ができない。
- 各住戸に外部出入口が必要。
- 上下階で住戸が別れたものは重層長屋と呼ばれる。
- 長屋と共同住宅の違いは、共用部(共用廊下・共用階段)の有無。
- 長屋は、特殊建築物ではない。
- 長屋の設計では、各自治体の建築基準法施行条例を必ず読むこと。
- 界壁は、建築基準法によって2つの性能が求められる。
- 防火性能(建築基準法施行令114条)
- 遮音性能(建築基準法30条)
- 住戸ごとに適用される建築基準法の規定は、戸建て住宅と同じ。