- 擁壁(読み:ようへき)って何?
- どんな種類がある?
- 確認申請が必要な擁壁について知りたい。
こんな悩みに答えます。
本記事では、「擁壁」についてわかりやすく解説。
建築基準法における擁壁の構造や種類、工作物として確認申請が必要となる規模を理解することができます。
このサイトは、確認検査機関で審査を担当していた一級建築士が運営。
住宅から特殊建築物まで1000件以上の設計相談を受けた経験をもとに、建築知識をわかりやすくまとめていきます。ご参考までにどうぞ。
擁壁(ようへき)とは【土砂崩れを防ぐ壁】
擁壁とは、高低差のある傾斜地で、斜面の土砂が崩れ落ちるのを防ぐための壁(工作物)です。
耐用年数は構造によって違いがあるものの、おおよそ20〜50年とされています。
擁壁の種類
擁壁の代表的な構造は以下のとおり。
- 鉄筋コンクリート造(RC擁壁)
- 無筋コンクリート造
- 練積造
- 石積み擁壁
鉄筋コンクリート造(RC擁壁)
鉄筋コンクリート造による擁壁は、コンクリートに鉄筋を埋め込んで補強するようにつくります。
鉄筋コンクリート造は、RC造と略されるため、実務では「RC擁壁」と呼ぶことも。コンクリートによる平滑な外観が特徴です。
耐震性能(地震に対する強さ)も高く、斜面地を平らにする際の土留めとして、利用されることが多いですね。
無筋コンクリート造
無筋コンクリート造は、コンクリートに鉄筋を入れずにつくる構造です。
鉄筋コンクリート造と比較して、以下のようなデメリットがありますね。
- ひび割れが発生しやすい
- コンクリートの打設方法によっては耐震性が低くなる
- 基礎地盤の強度に注意する必要がある
練積造
練積み造とは、コンクリートやモルタルを接着剤として使い、間知石(けんちいし)やブロックを積み重ねた構造です。
主に、基礎はコンクリートでつくります。
ブロックを6個集めた時のサイズが一間分(180㎝)となることから「間知」と呼ばれる。
石積み擁壁
石積み擁壁とは文字どおり、石を積んでつくった擁壁です。
建築基準法40条にもとづいて地方公共団体が定める「がけに近接した敷地に関する条例(通称:がけ条例)に適合しないことも。
トラブルが起こる危険を避けるため、擁壁を新設する際は、石積み以外の構造を選ぶほうが無難でしょう。
工事費用
擁壁の費用は構造ごとに異なります。価格の高い順に並べると以下のとおり。
施工にかかる費用は、人員の数・所要日数・施工のしやすさ等の要素によって決まります。
基本的には鉄筋コンクリート造を採用するのがベター。
擁壁を垂直につくれることによって、敷地が狭くなることもありません。建物の荷重を支えるために必要な強度も十分であると言えます。
確認申請の要否
高さ2mを超える擁壁をつくる場合は、建築基準法88条にもとづき、確認申請が必要となります。
ちなみに、すでにある擁壁(既存擁壁)が正しい手続きをもとに造られているかを調べるには、市役所の担当窓口で確認する必要があります。
✓ 既存擁壁の確認手順
- 建物を新築した当時の図面に擁壁の記載がないかチェック
- 建築基準法の工作物の確認申請、検査済証の有無については建築指導担当課に相談
建築基準法以外にも、法令によって定められた手続きはあります。
✓ 都市計画法による開発許可
切土や盛土によって土地の「形」を変えるなど、一定規模以上の開発行為は許可が必要です。
都市計画法の許可による擁壁かを確認するときは、開発指導担当課において開発登録簿を閲覧しましょう。
✓ 宅地造成等規制法による許可
宅地造成工事規制区域内で、以下の造成行為をおこなう場合は許可が必要です。
- 切土で2mを超えるもの
- 盛土で1mを超えるもの
- 切土と盛土を同時に行う場合に2mを超えるもの
宅地造成等規制法の許可について調べる際は、開発指導担当課に相談します。
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建築基準法による規制
建築基準法のなかで、擁壁をつくる際に確認しておきたい規定は2つ。
- 法19条(敷地の衛生及び安全)
- 法40条(地方公共団体の条例による制限の附加)
構造に関する規定は当然満たす必要があるため、ここでは除いています。
法19条(敷地の衛生及び安全)
建築基準法には、敷地の安全性に関する規定(法19条)があります。
(敷地の衛生及び安全)
第十九条 建築物の敷地は、これに接する道の境より高くなければならず、建築物の地盤面は、これに接する周囲の土地より高くなければならない。ただし、敷地内の排水に支障がない場合又は建築物の用途により防湿の必要がない場合においては、この限りでない。
2・3 中略
4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。
がけ崩れ等の被害を受ける可能性がある場合は「擁壁」の設置が義務付けられていますね。
一般に「がけ」とみなされるかどうかは、地面の傾斜によって決まります。傾斜の角度が30度未満で緩やかな勾配であればOK。30度を超える場合は「がけ」と判断されます。
法40条(地方公共団体の条例による制限の附加)
敷地内や周囲に「がけ」がある場合、建築基準法に基づいて特定行政庁が条例による制限を定めていることがあります。
(地方公共団体の条例による制限の附加)
第四十条 地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによつては建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる。
例えば、京都府では以下のとおり。
(崖に近接する建築物)
第6条 高さ2メートルを超える崖に近接して建築物を建築するときは、当該建築物と崖との間に、崖の上にあつては崖の下端から、崖の下にあつては崖の上端から、崖の高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
以下省略
出典:京都府建築基準法施行条例
自治体によって規定は異なるものの、計画地と隣地の地盤の高低差が2m以上となる場合に、擁壁の設置が必要となるケースが多いですね。
確認申請の要否について建築基準法を読む
高さ2mを超える擁壁に確認申請が必要となるのは、建築基準法88条と施行令138条で定められているからです。
「建築基準法を読みたくない」という方は、建築法規PRO2024 図解建築申請法規マニュアルや建築申請memo2024といった書籍で、図や表を見て理解を深めていきましょう。
法88条において「擁壁のうち政令で指定するもの」は、建築基準法の一部の規定を準用すると書かれています。
確認申請に関する条項は「第六条」。
(工作物への準用)
第八十八条
煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する工作物で政令で指定するもの及び昇降機、ウォーターシュート、飛行塔その他これらに類する工作物で政令で指定するもの(以下この項において「昇降機等」という。)については、第三条、第六条(第三項、第五項及び第六項を除くものとし、第一項及び第四項は、昇降機等については第一項第一号から第三号までの建築物に係る部分、その他のものについては同項第四号の建築物に係る部分に限る。)、第六条の二(第三項を除く。)、第六条の四(第一項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第七条から第七条の四まで、第七条の五(第六条の四第一項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第八条から第十一条まで、第十二条第五項(第三号を除く。)及び第六項から第九項まで、第十三条、第十五条の二、第十八条(第四項から第十三項まで及び第二十四項を除く。)、第二十条、第二十八条の二(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。)、第三十二条、第三十三条、第三十四条第一項、第三十六条(避雷設備及び昇降機に係る部分に限る。)、第三十七条、第三十八条、第四十条、第三章の二(第六十八条の二十第二項については、同項に規定する建築物以外の認証型式部材等に係る部分に限る。)、第八十六条の七第一項(第二十八条の二(第八十六条の七第一項の政令で定める基準に係る部分に限る。)に係る部分に限る。)、第八十六条の七第二項(第二十条に係る部分に限る。)、第八十六条の七第三項(第三十二条、第三十四条第一項及び第三十六条(昇降機に係る部分に限る。)に係る部分に限る。)、前条、次条並びに第九十条の規定を、昇降機等については、第七条の六、第十二条第一項から第四項まで、第十二条の二、第十二条の三及び第十八条第二十四項の規定を準用する。この場合において、第二十条第一項中「次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準」とあるのは、「政令で定める技術的基準」と読み替えるものとする。
以下省略
政令で指定するものは、建築基準法施行令138条をチェック。
(工作物の指定)
第百三十八条
煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する工作物で法第八十八条第一項の規定により政令で指定するものは、次に掲げるもの(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関するものその他他の法令の規定により法及びこれに基づく命令の規定による規制と同等の規制を受けるものとして国土交通大臣が指定するものを除く。)とする。
一~四 中略
五 高さが二メートルを超える擁壁
まとめ
- 擁壁とは、土砂が崩れ落ちるのを防ぐための壁(工作物)。
- 代表的な構造
- 鉄筋コンクリート造(RC擁壁)
- 無筋コンクリート造
- 練積造
- 石積み擁壁
- 擁壁の価格比較
- 鉄筋コンクリート>無筋コンクリート>練積み造
- 高さ2mを超える擁壁は、確認申請が必要。
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