『既存不適格建築物』とは?|増築における注意点をわかりやすく解説

増築
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  • 『既存不適格建築物』って何?
  • すでに敷地にある建物が、現在の建築基準法には適合していないらしい。どうすれば増築できる?

こんな疑問に答えます。

本記事では、建築基準法における『既存不適格建築物』について、わかりやすく解説。

増築を検討している設計者の方は、「既存不適格」という言葉の意味を理解することで、設計をスムーズに進めることができるかと。

このサイトは、確認検査機関で意匠審査を担当していた一級建築士が運営しています。

住宅から特殊建築物まで、1000件以上の設計相談を受けて得た建築基準法の知識をできるだけわかりやすくまとめていくので、ご参考までにどうぞ。

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『既存不適格(きぞんふてきかく)建築物』とは|用語の意味を解説

『既存不適格(きぞんふてきかく)建築物』とは、敷地にすでにある建築物で、現在の建築基準法には適合していないもの。

もう少し掘り下げて説明すると、以下のとおり。

既存不適格建築物:当時の建築基準法には適合していたものの、法改正によって不適格な部分のある既存建築物。

 

既存不適格建築物となる事例【エレベーターの遮煙性能の有無】

既存不適格_EV遮煙

例えば、エレベーターの防火区画に「遮煙性能(=煙を遮る性能)」が必要とされたのは、平成14年5月31日。

平成14年以前の建築物でエレベーター扉に遮煙性能が付いていない建物は、当時の建築基準法には適合していますが、現在の基準法に照らし合わせると不適合となります。

このように、現行の法律では適合しない部分を有する建物を『既存不適格建築物』と呼ぶわけですね。

 

既存不適格建築物は、増築等をしなければ現状維持でもOK

既存不適格建築物は、現在の基準法に適合しない部分があるものの「すぐに改修しなければいけない…」と焦る必要はありません。

建設当時の法律には適合しており「違反建築物」ではないため、増築・用途変更・大規模修繕・大規模模様替えを新たに行わない限りは、そのままの状態を維持すればOKです。

 

「既存不適格建築物」と「違反建築物」は違う【違反建築物は罰則あり】

「既存不適格」であることと「違反」しているというのは全くの別モノ。

違反建築物とは、建設した当時の建築基準法にも適合しておらず、本来必要な行政や確認検査機関による完了検査も受けていない建物のことです。

 

もちろん違反建築物だと判明した時点で、建築基準法に適合するように改修が必要となります。

既存不適格建築物と違反建築物との違い

  • 既存不適格建築物:増築・用途変更・大規模修繕・大規模模様替えをしない限り現状維持
  • 違反建築物:建築基準法に適合するように速やかに改修が必要

 

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敷地内の建物が「既存不適格建築物」かどうか調べる方法

「既存不適格建築物」かどうか調べるために必要な手順は3ステップ。

  1. 既存建物の確認申請図書(副本)などの資料を収集
  2. “現況調査チェックリスト”などを活用し、現在の建築基準法に適合するか確認
  3. 法改正等により、現在の建築基準法に適合しない場合は『既存不適格建築物』

 

既存建物の確認申請図書(副本)などの資料を収集

敷地に建っている建物が、既存不適格建築物かどうか調べるために、まずは以下の書類を手に入れる必要があります。

  • 既存建物の検査済証(または、台帳記載事項証明書)
  • 既存建物の確認申請図書(副本)

逆に言えば、上の2つの書類がないと「既存不適格建築物」か「違反建築物」かの判断は難しくなります。

 

確認申請図書の副本がどうしても見つからないときは、最低でも下記の書類を取得しましょう。

  • 既存建物の建築計画概要書:市役所等の窓口で入手可能
  • 既存建物の施工図

例にあげた書類以外にも、どんな図面や写真でもいいので、建設当時のことがわかる資料をかき集めるべき。

 

“現況調査チェックリスト”などを活用し、現在の建築基準法に適合するかどうかをチェック

既存建物が現在の建築基準法に適合しているかどうか、確認申請図面を見ながらチェックするときは、『既存建物調査のチェックリスト』を活用するのがおすすめ。

法令集を読みながら、一つずつ法文を調べるのは難しいと思うので…。

 

例えば、大阪府であれば、大阪府内建築行政連絡協議会で“現況調査チェックリスト”の様式が公開されています。

大阪府以外の行政や指定確認検査機関も様式を公開しているので、ぜひ利用してみてください。

 

実際にやってみるとわかりますが、既存不適格の有無をチェックするというのは、非常に難しい作業。

指定確認検査機関の審査業務と同じことを設計者が行うようなもの。既存建物を新築で設計できるような建築基準法の知識が要求されます。

あまり経験のない建物用途や規模の『増築』を受けると、既存建物の法チェックで苦労することが多いかと…。

増築設計にたずさわるのであれば、既存建物の建築基準法適合性について、深く調べる期間も確保しておきましょう。

 

『既存不適格建築物』への増築は、現在の建築基準法に適合させるのが原則【※緩和方法あり】

「既存不適格建築物」のある敷地で増築を行うときは、不適格部分をなくし「現在の建築基準法」に適合するように設計する、というのが基本的な考え方。

つまり、既存不適格部分は原則として改修工事などにより、現行法に適合させなければいけないということですね。

ただ、”原則”という言うからには”例外”もあります。

 

”既存不適格となる条文”によっては、一定の緩和条件を満たすことで、既存不適格のまま維持することが可能。

ですが、緩和が適用できるのは、建築基準法のなかでも一部の規定です。

「どんな既存不適格があっても緩和でなんとかなる」といった考えはNG。

 

確認申請の段階で「緩和が適用できないことが判明」⇒「増築するためには既存の改修が必須」⇒「改修の規模が大きすぎて、増築はできない…」と計画が破綻する恐れがあります。

あくまでも、増築では「既存建物を現行の基準法に適合させるのが基本」と理解しておきましょう。

 

増築をするときは既存不適格建築物に現在の建築基準法が遡及する(=既存遡及の原則)

増築をするときは既存不適格建築物に現在の建築基準法が遡及(そきゅう)します。(=既存遡及の原則)

遡及(そきゅう):さかのぼって、過去のことまで効力を及ぼすこと。

 

既存の建物にさかのぼって適用される建築基準法の規定は、『別棟増築』か『同一棟増築』かによって異なります。

「別棟増築」と「同一棟増築」の意味がわからない方は『増築』とは?|「別棟増築」と「同一棟増築」の違いや注意点を図解という記事をご確認ください。

 

既存不適格建築物に対して、増築行為を行う際に遡及する建築基準法の規定を、増築種別ごとに分けると以下のとおり。

  • 別棟増築:建築基準法の「集団規定」が既存建物に遡及
  • 同一棟増築:建築基準法の「集団規定」と「単体規定」が既存建物に遡及
集団規定:建築基準法のうち、市街地の環境整備等を目的とする規定。(用途地域・建物高さ・防火地域など)
単体規定:建築物の構造耐力、居住性を確保するための基準、安全確保を目的とする規定。(構造規定・居室の採光・防火避難規定など)

 

「同一棟増築」は、単体規定の遡及についても検討する必要があるため、「別棟増築」に比べて高度な法律知識が要求されますね。

『増築』における遡及項目を詳しく知るには、プロが読み解く 増改築の法規入門 増補改訂版という書籍に掲載されている早見表が参考になります。

 

【別棟増築】計画地の都市計画情報に変更がある場合は要注意

「別棟増築」で注意すべき点は、用途地域・防火地域・地区計画など、都市計画法の地域地区が既存建物の着工時点から変更されていないかどうか。

 

敷地の都市計画情報は、増築計画のなるべく早い段階で調査しておきましょう。

申請敷地の建築計画概要書を市役所で閲覧したり、既存建物の申請図書(副本)を取得して、”当時の地域地区”と”現在の地域地区”が変更されていないか比較してみてください。

もし変更されている場合は、現在の地域地区でも既存建物が適合となるか、建築基準法に照らし合わせて検討する必要あり。

現在の基準に適合していないことが判明した場合は、『既存不適格建築物』です。改修して現行法に適合させるか、緩和条文を利用して現状維持とするか判断しなければなりません。

 

既存不適格の緩和方法については、【増築】既存不適格の緩和方法まとめ|緩和条文の早見表も紹介という記事を参考にどうぞ。

 

【同一棟増築】既存建物も含めた法適合性チェックが必要

「同一棟増築」は既存建物も増築建物も一体で考え、”一つの建築物”を設計するような観点で、現在の建築基準法に適合するかチェックが必要。

増築部分は建築基準法に適合していても、建物全体でみると「不適合」というケースも。

 

例えば、床面積1400㎡の建物に、200㎡の建物を同一棟増築する場合を考えてみてください。

既存不適格_同一棟増築

増築部分が比較的小さいため簡単に思われるかもしれませんが、油断は禁物。

既存建物が耐火建築物であれば、増築したことによって1500㎡を超えるため、面積区画(令112条)が新たに必要となり、既存建物を改修しなければならないケースもあります。

同一棟増築の設計では、増築部も既存部も”一つの建物”として捉えるということを意識しましょう。

 

まとめ

  • 『既存不適格(きぞんふてきかく)建築物』とは、敷地にすでにある建築物で、現在の建築基準法には適合していないもの。
  • 「既存不適格建築物と違反建築物との違い
    • 既存不適格建築物:増築等をしない限り現状維持
    • 違反建築物:建築基準法に適合するように速やかに改修が必要
  • 「既存不適格建築物」かどうか調べるために必要な手順は3ステップ。
    1. 既存建物の確認申請図書(副本)などの資料を収集
    2. “現況調査チェックリスト”などを活用し、現在の建築基準法に適合するか確認
    3. 法改正等により、現在の建築基準法に適合しない場合は『既存不適格建築物』
  • 現在の建築基準法に適合しているかどうかのチェックは『既存建物調査のチェックリスト』を活用。
  • 「既存不適格建築物」のある敷地で増築を行うときは、不適格部分をなくし「現在の建築基準法」に適合するように設計する、というのが基本。
    • ”既存不適格となる条文”によっては、一定の緩和条件を満たすことで、既存不適格のまま維持することが可能。
  • 増築をするときは既存不適格建築物に現在の建築基準法が遡及(そきゅう)する。
  • 既存不適格建築物に対して、増築行為を行う際に遡及する建築基準法の規定を、増築種別ごとに分けると以下のとおり。
    • 別棟増築:建築基準法の「集団規定」が既存建物に遡及
    • 同一棟増築:建築基準法の「集団規定」と「単体規定」が既存建物に遡及